深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】oasis-オアシス-~ときに心配は人を裁く~

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《内容》

ひき逃げ事故で兄を助け刑務所から出たばかりの青年ジョンドゥは、家族のもとへ戻るものの、皆からけむたがられていた。ある日、被害者家族のアパートを訪れた彼は、寂しげな部屋で一人取り残された女性コンジュと出会う。脳性麻痺を持つコンジュは、部屋の中で空想の世界に生きていた。二人は互いに心惹かれ合い、純粋な愛を育んでいくが、周囲の人間はだれ一人として彼らを理解しようとはしなかった。そして、ある事件が起こる…。

 

 

 ときに「心配」って人を裁くんだよね。人の人生を閉ざしてしまう。心配ゆえに水をあげすぎて花を腐らせてしまうように、日の当たらない場所に閉じ込めて太陽から隠してしまうように、心配はときに暴力なのだ。

 

心を配ることと信じることの違い

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 主人公・ジョンドゥは犯罪歴があり、そのため優秀な兄のひき逃げの罪をかぶり刑務所に入った。それは兄に恩を着せようとか、何かの交渉に使おうとか、そういうのではなく単純に真っ白な兄に犯罪というシミをつけるより、すでにシミがある自分の方がいいのでは?ということだった。

 だが、そんなジョンドゥの行いは通常は受け入れがたい。なんの見返りも求めずに罪をかぶるなど誰にも想像できないことだった。

 

 そんなジョンドゥだから刑務所から出た後には被害者の家族の元へ挨拶に行ってしまったのだ。単純に謝ろうと思って。

 だけど、その行為はもちろんいつもヘラヘラして真剣でも心が他人に伝わらないジョンドゥは追い返されてしまう。しかし、そこにいたコンジュという女性が一人この家に置き去りにされる瞬間を見てしまってから、ジョンドゥはこの家に通うこととなる。

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  ジョンドゥはコンジュに襲い掛かるが、コンジュの必死の抵抗に驚き部屋を出ていく。脳性麻痺を患っているコンジュはうまく話せないけれど、自分の感情がないわけではない。知らない男が入ってきた恐怖もあれば、兄に置き去りにされたことにも気づいていた。

 そして、ジョンドゥは逃げたけれど自分をほかの人と同じく扱ったことに気づき、彼のバイト先に電話をかけたことから二人の関係は始まるのだった。

 

 コンジュは自力で部屋から出ることはできない。だが外に連れ出してくれる人はいなかった。ジョンドゥはコンジュを連れ出すけれど、外でご飯を食べようにもお店から断られたり、白い目で見られたり、偏見の目がいつも二人を監視していた。

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  コンジュの部屋に飾られたオアシスの絵に木の陰が被さると、コンジュは怖いという。ジョンドゥは影が消えるおまじないとその度に唱えて消したけど、コンジュを強姦した疑いで逮捕されたジョンドゥはもうコンジュの恐怖を取り除いてやることはできないと悟り、物理的に影を消そうと木の枝をすべて切り落とすのだった。

 

 ジョンドゥもコンジュも一人では生きていけない人間である。こういう言い方をすればそんなの誰だってそうかもしれないけれど、衣食住・そのほかに生活にかかるお金や生活力、他人とのコミュニケーション、生きていくっていうのは何か一つの才能が特筆していることよりすべてが平均的であることの方が有利なのだ。

 

 家族はきっと二人を心配している。見捨てたいけど見捨てきれない。だから心配する。心配しながら、でも手がかかるから利用してやろうと目論む。そこに信じる心はないように思えた。

オアシス デジタルリマスター版

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 心配するって基準や正義や価値観が自分にあるけど、信じるとか見守るとかって相手が持っているものを大切にすることだからものすごく難しいことなんだと大人になって思う。 誰が悪いとかでなく、その難しさと美しさが同じ世界あることをこの映画は伝えている気がするのでした。