《内容》
ヒュールリン・ギムナジウムの転入生エーリク。そこで彼は自分の分身トーマに出会った。2人を結ぶ罪と愛の秘密とは…。名作「トーマの心臓」の原型となる「11月のギムナジウム」、12年の後にめぐりあった双子の兄妹の歌声がイブの夜に流れる「セーラ・ヒルの聖夜」、少女と3人の妖精のメルヘン「塔のある家」など7編を収めた魅惑の初期短編集。
これを読んで、トーマはすごく純粋で本当の愛を求めていたんだなぁ、と思いました。
11月のギムナジウム
・・・ぼくの命はとじこもっている
・・・秘密は・・・
封印された
つぼのなか・・・
主人公・エーリクはやんちゃな美少年で、十一月の第一火曜日にヒュールリン全寮制ギムナジウムに転入した。
そこにはトーマという学校のアイドルがいた。みんなが過保護にするトーマとエーリクは瓜二つであった。トーマと瓜二つであることでエーリクは転入早々注目を浴びることになる。
やんちゃなエーリクと違い、自分の感情を一切見せず、みんなのアイドルとしてのおもちゃになっているトーマの心は誰にも分らなかった。そしてそれを誰にも見せないままトーマはこの世を去るのだった。
エーリクとトーマは双子で、エーリクは本当のママと、トーマは亡くなった本当の父の家で暮らしていた。おそらく繊細で察しの良いトーマは自分がいる場所に秘密しかないことを知っていた。
「トーマの心臓」のトーマの言葉
ユリスモール
ユリスモール
少しでもぼくを好き?
ユリスモール それではきみはーーー誰も愛していないの?
でもそれで生きていけるの?
これからもずっと・・・?
誰も愛さずに生きていくことがどれだけ苦しいのかトーマは知っていた。愛したいけど、自分に隠し事をしている人たちを愛していいのか分からない苦しみ、本当のことを知りたいけれど、それが隠し事である以上、知りたいと思うことが裏切りではないかと思う苦しみ、たぶんトーマがアイドルになったのは顔や雰囲気だけでなくこういう思慮深さがあったからなんだろうなぁ、と思います。
トーマがエーリクに何も言わなかったのは、きっと誰にも傷ついてほしくなかったからなんだろうなぁ、と思います。
ママ、自分を育ててくれた親、何も知らない兄弟・・・自分が動きだしたり話したりすれば今までの平和は壊れてしまう。だから自分の命を閉じ込めたままいってしまったように思います。
ときに、真実を知りたいと思う気持ちは相手への糾弾になってしまうから。
萩尾 望都作品って唐突にドキッとさせるような、なんとなくまやかしっぽい、あいまいで成り立っている世界に一石を投じるような、そういうお話が多いです。
本作では「かわいそうなママ」も強烈です。
結局 一番よかったんだ
ママの手は冷たいけれど
それは死んでしまったからで
かわいそうなことのためじゃないんだもの
かわいそうな人じゃった
だれも奥さんを幸せにゃできなかった
・・・窓から落ちるまではね・・・
共通点は、子供が罪を持つこと。生まれながらの罪、愛するが故の罪。子供ゆえに力もお金も、ずるさもないから罪をさけたり無視したり交わすことができない。
暖かいものに出会ったときに素直に笑えるように、苦しいことに出会ったとき、あっけなく消えてしまう。本当に少女漫画なのだろうか?と思うくらい哲学的な漫画です。
子供って思っている以上に傷だらけなんですよね。