《内容》
東京の片隅で小料理店を営んでいた夫婦は、火事ですべてを失ってしまう。夢を諦めきれないふたりは金が必要。再出発のため、彼らが始めたのは妻が計画し、夫が女を騙す結婚詐欺!しかし嘘の繰り返しはやがて、女たちとの間に、夫婦の間に、さざ波を立て始める…。
この話、まだ若い時に見たときは、阿部サダヲの魅力を一つしか知らず、明るいのか暗いのかよくわからん作品・・・という感想で終わったんですが、大人になってたくさんの人間とかかわって阿部サダヲの多面的な魅力を知ったとき、この物語は私の中で忘れられない作品となりました。
人間最大の謎は、男と女
小料理店を営む市澤夫婦だったが、火事によって二人の城は燃え尽きてしまった。再起するためにお互いアルバイトをすることにしたが、板前の貫也は自分のやり方を変えることができず、適当な仕事をする板前と喧嘩になりまともに仕事にならない。
一方、里子はラーメン屋で要領よくやっていた。貫也は誰とでもうまくやれるだけの力がある里子が自分のような人間と結婚するなんて、とどこまでも卑屈になっていた。その感情を里子にぶちまけ、どこまでも落ちていく貫也を救ったのは、あの日店にいた一人の客だった。
貫也が女から金をもらい帰ってきた日、里子は貫也と共謀して結婚詐欺で資金を貯めることを思いつく。台本を用意し、夫に話させる。そして自分は妹として介入し、がんで治療費が膨大にかかるという設定で貫也に女たちから金を巻き上げさせたのだった。
初め、夫は乗り気ではなかったがだんだん率先して女を見つけ、嬉々として状況を報告するようになった。
里子は夫がほかの女の家に行っている間、一人きりで家にいた。それだけでなく自分で自分を慰めることもしていた。夫がほかの女の家に行っている間。
さらに夫はシングルマザーに目をつけ、そこの子供ともうまくやり、お父さんにもなっていた。
里子は自ら始めたこととはいえ、女たちが夫に金を渡すこと。渡すだけの財力、才能、同情心、そして夫が去ったあとも彼女たちは自分の持っているものでまたお金を作れることに対して複雑な感情を持っていた。
夫はすでに、これが新店舗の資金繰りだけでなく里子の復讐であることに気づいていた。しかし、本当に里子が欲しかったものを知る者は里子含め誰もいなかった。
だけど私の人生にはね
人を引き付けるような力がないそれはね、結局私があの人の人生にのっかってるだけだからなのよ、きっと
ひとみちゃん
自分の足で道を作らないと人生は卑怯なことになるわよ
女の嫉妬が怖いのは、それがただの表面的なことでなく深い闇に繋がっているからのような気がしてならない。
不思議なことに、女は、露骨な悪女よりも、無自覚な同性を疎む傾向がある。多くのものに否定されながら、それを踏み越えるしかなかった女たちにとって、無自覚さは、奪われてしまったものの象徴だから。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。/辻村深月~母、娘、友達、女、30歳前後・・・とりあえず左記にあたる人は読んでみてほしい小説~ - 深夜図書より
ウエイトリフティングの選手であるひとみは、オリンピックにも出たほどの才能と強さの持ち主だ。種目的に、体格は大きく、骨太であった。そんなひとみを目にし、里子は「自分が男でも、あれは無理じゃない?あんた相手できるの?」と夫に言う。まるで、夫を心配する妻みたいに。
だけど、これは明らかな嫉妬である。
さも一般的な感覚であるかのように話しながら、そこには自分が持っていないものすべてをもっているひとみへの嫉妬。そしてそれが夫を奪うのではないかという不安。そういうものが滲み出ている。
二人の犯罪は、騙したうちの一人の告発により幕を閉じるが、騙された人たちは見事に自分の足で自分の人生を歩んでいた。
ちょっちょっと
二人ともやめてくださいよ
誰に幸せにしてもらうの?
あんたが幸せにしてくれた?
市澤さんもあたしそんなこと頼んだっけ?
あたしは今が幸せだよ
こんな様だけど自分の足で立ってるもん
自分で自分の人生に落とし前付つけられれば
誰に褒められなくたっていいもの
歯が汚く、男に貢ぎ、自分の夢より相手が困っていることを優先し、ボロボロになっても自分の力で稼ぐ人、困ってる人にぽーんと大金を差し出せるほど、自分の仕事がある、もしくは稼げるという余裕がある人、自分が入院しても相手のためにお金を用意する人・・・結局、相手に結婚という夢を売って奪うことをしてきた二人が奪ったのはお金だけで、”夢”を売ったのは二人だけだったのだ。
何度もこのブログで言ってるが、女性は全員西原理恵子先生のこの作品を見たほうがいい。
「王子様を待たないで。社長の奥さんになるより、社長になろう」
女磨きって、エステやネイルサロンに通うことじゃないからね。お寿司も指輪も自分で買おう。その方が絶対楽しいよ。
楽しさは人それぞれである。だから、この意見がすべてではない。けどもし今幸せでないなら、だれかに幸せにしてもらうではなく、自分で自分を幸せにする道を探したほうがいい。たぶんそういう人は、人を幸せにしたいという気持ちを持っている人だとお思うから。だからその力がない自分を好きになれず苦しんでいるのだと思うから。