《内容》
一本の映画で二度三度とおいしい。物語作家ならではの洞察が光る珠玉のエッセイ集。
桜庭さんはこれもそうなんだけど、結構自分の感想が本になることが多い。
桜庭さん大好きな私は「ごっつあんです!」って感じなんですけど、桜庭さんを知らない人は手に取るのだろうか・・・?それとも私の周りにいないだけで、桜庭さんはもはやかなりの人気作家なのだろうか・・・ということを考えてしまう今日この頃。
物語の効能
物語とは、「どうしても誰かにわかってほしいことがあって、言葉にできなくて、でも作品を通してなら伝えられる」「設定は虚構だけど気持ちは百パーセント本当」なものであり、創作とは、そんなやむにやまれぬ衝動に突き動かされて始まるものなのだ。
紹介されている96作品中見たことある映画が14作品あって、私とは違う解釈や違う視点での感想があって嬉しかったです。
私もこのブログで観た映画を紹介してるのですが、さすが作家さんというか、自分の話を交えながら「観たい!」と思わせる力があってすごいなぁ。。。と勉強になりました。
以前はインターネットで公開されていた「桜庭一樹のシネマ桜吹雪」。今はもうネット上にはないけれどこうやってまとめた本が出版されていました。
桜庭さんが本書で紹介していた映画で一番観たい!と思った一作はこちら。
もうずいぶん前、自分がこの世で最も哀れな、とるに足らない、塵のような存在だと心から信じられる日があった。部屋の隅でガタガタ震えて泣いていたとき、自分のすぐそばに”誰かが立っている”という生々しくはっきりした感触を覚えた。
(中略)
苦労が続いた果てに、純朴なラザロは、最も惨めで最も持たざる者になっていく。教会から追い出されるラザロを、煙のように追いかける讃美歌。彼のすぐそばについに立った”誰か”。
神の顕現により、死と生、幸福と不幸が対義語ではなくなるというラストに、わたしは「あのとき感じたことが映画になってる!」という、極めて個人的な感想を持ちました。
外界から遮断された村に一人の純朴な青年・ラザロがいた。誰よりも働き、誰よりも人を信じている青年。搾取され続けた村人を解放した張本人。だけど、ラザロはどんどん失っていく。
桜庭さんがガタガタと震えていたというその瞬間に、ラザロはどんな表情をしていたのだろう。二人の元に降り立った”誰か”。それを私も感じることができるだろうか。