《内容》
大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。夜市では望むものが何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―
作家と読者には奇妙な関係があると思う。
読者は一つでも自分の琴線に触れた作品があると、その作者の別の作品にも手を出し、勝手に作家に同期して自分の一部にしてしまう。そうなると新作が出てもわくわくこそれ、まるで実家の玄関のドアを開けるかの如くなんのためらいも遠慮もなくその本をレジに持っていき、帰り道の電車の中やお気に入りのカフェやら風呂やらベッドの上やらでページをめくる。
究極で最高に一方通行な”信頼”である。
私は恒川さんの作品は初めてだったので、友達の家に食事に呼ばれていったけど、ご飯が水っぽかったりブロッコリーが柔らかすぎたりして食べられなかったらどうしよう、と友達の家の玄関前でインターホンを鳴らすかどうか迷う時と同じ心情でこの本に手をかけた。
そして期待以上の夕食をご馳走になり次の約束をして家に帰ったのだった。
あの世とこの世
「無理よ。どこから来たのか知らないけれど、あなたは夜市の仕組みをわかっていない。ここに迷い込んだら、買い物をするまで出ることはできないの」
夜市・・・大学二年生のいずみが、同級生の祐司に誘われて夜市という市場に誘われたことから始まる。
公園の奥の暗い木々の茂みの奥にあるという夜市に行くと青白い光が見えてきて屋代が並んでいるのが見えた。
しかしそこの売り手はこの世のものではなく、売っているものも三途の川の石などこの世のモノではなかった。気味が悪くなり帰ろうとする二人だが、帰り道はなく、なんと何かを買わなければ出られない、というルールを聞かされる。そしてこの夜市に誘った祐司が過去にこの夜市から出るため、一緒にいた弟を野球の才能と引き換えに売ったことを知らされる・・・
風の古道・・・七歳の春、誰も知らない道を発見した僕は友達と一緒にもう一度あの道を通り、そして友達は二度と帰ることができなくなった。
これは成長の物語ではない。
何も終わりはしないし、変化も、克服もしない。
道は交差し、分岐し続ける。一つを選べば他の風景を見ることは叶わない。
私は永遠の迷子のごとく独り歩いている。
私だけではない。誰もが際限のない迷路のただなかにいるのだ。
2作品に共通する、というかホラーに通ずるのは"あの世とこの世"、"現実と非現実"であり、本書は身近にあるホラーというよりファンタジーやSFのようなパラレルワールドチックな色がありました。
同じホラー小説大賞を受賞した貴志さんの、「黒い家」「13番目の人格-ISOLA-」が実際の人間の狂気サイコパスを描いているのとは対照的です。
正直怖いというより、ミステリーのような感じでページをめくる手が止まらない。それに加えてゴシックホラー特有の幻想的な風景の描写が文字から映像に代わって私の脳内を駆け巡る。
途中ジャンプのような冒険要素もあったりして、
「これだからホラーがやめられない・・・」
とため息が出るのでありました。
マンガ版もあるのですね。確かにマンガやアニメにして夜市の風景を描いてほしいくらい綺麗な描写でした。
ファンタジーとホラーはほぼ同じと思ってる私にとって超大好物だったこの作品。来年は恒川 光太郎作品をめぐる年になりそうです。