《内容》
田舎町で床屋を営む理容師の高志(山田孝之)。夏のある日、幼馴染で高校時代の恋人・ともえ(中村ゆり)がやって来る。14年ぶりに再会した二人。あの頃と今が交錯して、会話はどこかぎこちない。「結婚式のためにうなじの毛を剃って」とお願いするともえ。高志は少し戸惑いながらも、ともえを店の中へ案内する。
26分のショートムービー。
女性は失恋したら髪を切る、というけれど、失恋しようとして元カレに切ってもらうっていうのはなんか新しいな…と思って新鮮でした。
ぎこちない二人にニヤニヤとちょっとの期待を込めてしまうのだが、最後は秀逸。出来事で言えば、"ただ髪の毛を切っただけ"なのにどうしてこんなに爽快感と前向きな気持ちになれるのだろう。
映画ってどうしてもドラマチックに盛り上がるのが重要というか120分観客を惹きつけ続けるために大切なことだと思うんですけど本作は26分だからか、繊細な心の動きだけを書いていて、たぶんそのおかげで見終わった後禊がすんだ、みたいな清らかな気持ちになりました。
過去にもどるためのトリガー
タイトル「点」は、主人公・ともえのうなじにある黒子であると同時に、元カレの高志でもあると思う。
ともえは妻子ある男と不倫中。そんな折、地元の友達の結婚式が決まり田舎に帰省する。母親には今の彼氏のことは言っていない。悪気なく「まりちゃんの結婚式でいい人がいるといいね」と言ってくる。ともえは鏡を見ながら長い髪を一つにまとめる。そのとき、鏡の左下の縁に色褪せたうさぎのシールを見つける。
ちょっと首の産毛剃ってもらえないかなと思って
あ、いやじゃなかったら
ともえは高校時代の恋人・高志の営む理髪店に行き、まりの結婚式で着る着物に合わせて産毛を剃ってもらいに行く。
突然現れたともえに高志はおどろき、ともえもまた緊張のせいかぎこちない。会話の流れからきっとともえの方が高志を好きだったのだろう。
大人になった二人の高校生の付き合い立てみたいなほっこりしたシーンが続き、ともえの肩にケープがかかる。高志は首にあてる泡を立て始める。そのとき不倫相手から電話がかかってくる。
最初は産毛を剃るだけ(この不毛な恋のモヤモヤを何とかしたい)だったともえは、産毛を剃り終えたあと、前髪も切ってほしいという。
まだ美容師になる前、学生だったときの高志に切ってもらった思い出の一つをリクエストしたのだった。
産毛を剃ってるときの音楽と映像がすごくきれいで、とても神聖な感じがします。気持ちよさそうに目を閉じて産毛を剃ってもらうともえが、不倫という良くない世界から帰ってくるための禊を行っているようで。
そのあと、後ろ髪ではなく前髪を切ったのは過去の思い出を通して過去の純粋に人を好きだった自分に戻るための儀式というのが一つ。もう一つはまだ完全に切れてはいない相手との関係を表しているのかな、と思います。ちゃんとお別れした後にするのが後ろ髪、って感じで。
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初恋の相手とか、学生時代の友人って過去に戻るためのトリガー的存在になりますよね。例えどんなに相手が老けていても一瞬で過去の記憶も、過去の自分も蘇ってくる。 夜空に向かって一番星を見つけるみたいに、人生の中でその一つの"点"を見つける。星だろうが人だろうが、それを見つけたとき私たちは嬉しく思うはずだ。そしてまだ自分に"見つけられる能力"があることを無自覚に理解する。だからともえはきっと新しい恋人をまりの結婚式で見つけられると思いました。