《内容》
「子どもを返してほしいんです。」平凡な家族のしあわせを脅かす、謎の女からの1本の電話。この女はいったい何者なのか―。
一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。
ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり"を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。
当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?
続く物語なんだな、という印象です。
養子縁組で子供を迎え入れた、14歳で子供を産んで支援団体に預けた。説明は過去系になっても、そこから動き出した人生は続く。
ある日生みの親の名を名乗り、子供を返すか金を出せという脅迫を受けた夫婦は、その悪意と真正面から向き合うことを決意するが、そこにあったのは悪意ではなくさまよう小さな女性だったのであった。
動き出した人生は続く
ごめんなさい
わかってあげられなくて
ごめんなさい
主人公は養子縁組で子供を迎え入れた佐都子(永作博美)なのですが、描いていることは14歳で妊娠した片倉ひかりのその後の人生だと思います。
不妊治療を続けていた夫婦は養子縁組で子供を迎え入れ、大事に大事に育てていた。子供を迎え入れるまでに葛藤や辛い不妊治療もあったけれど、そこはこの作品の軸ではなさそう。
焦点は、14歳の初潮前に予期せぬ妊娠をし、妊娠によって夫となる同級生の彼氏からは一方的に捨てられ、母には泣かれ、両親からは話し合うこともせず養子縁組のレールを敷かれ、ついには生んだ子供を育てている夫婦を脅迫するところまで堕ちていく片倉ひかりの人生である。
なかったことにしないで
佐都子はひかりを追い返した後、14歳のとき彼女が子供と一緒に渡してくれた手紙をもう一度見返す。よく見るとボールペンの黒い文字の奥に、強い筆跡の痕があった。佐都子はその上を鉛筆で塗りつぶしていく。するとそこには「なかったことにしないで。」という文字が浮かんできたのだった。
ひかりが妊娠に気付いた時にはすでに中絶可能な周期を超えていた。産むしかなかったひかりに、両親は肺炎だと嘘をつくようひかりに強要し彼女の妊娠と出産は誰にも知られることはなかった。(なかったことにされた)
しかし、親戚の集まりの中でひかりは伯父さんに妊娠を「えらい災難」「アホな目にあった」と慰められる。(辛いことは忘れろ、つまりなかったことになる)
家族の中でも居場所のないひかりは養子縁組の団体のところに戻り、ここで働かせてほしいというが、この団体ももう無くなると伝えられる。
ひかりの人生を変えた妊娠・出産という大きな出来事が他の人の中では”なかったこと”になっていく。そしてひかりの子供がいたという証明の場所さえ無くなってしまう。それに養子縁組で自分の子供を迎え入れたあの夫婦はどうだろう?もう忘れて自分たちの子供だと思って育てているかもしれない。子供にも一生隠し通すかもしれない。
ひかりはお金が欲しかったのではなくて、思い出してほしかったのだと思う。なかったことにしないでほしかったのだと思う。
佐都子は出会った頃の純粋な姿とは違い、傷んだ黄色い紙にくぼんで冷めた目をしたひかりを「あなたは誰ですか」と追い返す。
だが、ひかりは佐都子が14歳の自分を忘れていないことを知り「違います」と言って立ち去る。その後捜索願いを出されたひかりと会っていたことで、警察が佐都子に彼女の写真を見せ、片倉ひかりであることを伝えると佐都子は子供をつれて彼女に会いに行くのだった。
タイトル「朝が来る」は、佐都子たち夫婦にとって子供を迎え入れた日のことと、片倉ひかりが自分の過去と向き合い前を向いて生きていくこととなったラストシーンにかかっている。
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14歳で妊娠するなんて、って思う人はたくさんいると思うんですが、14歳ってまだまだ親とか大人の援助が必要で子供だと思うのですよ。14歳で正しい判断とか、冷静になるとか、躓いたときに持ち直すことって周りの協力がないと難しいように思う。
途中ヤクザ?ヤミ金?の男が「バカだからじゃないの」ってひかりに言うんですが、私はひかりはバカじゃないと思います。人のずるさや無神経さや弱さにぶち当たる前に自分が傷ついてしまっただけ。
佐都子を脅迫しながら、佐都子の言葉に泣いてしまったり、ひかりはまだ14歳の傷に苦しんでいるんだな、と思い悲しくなりました。
彼女が佐都子の愛を間近で感じてこれからどう変わっていくのか。そういうアフタートークも知りたく思った作品でした。