《内容》
街を流離(さまよ)う傷ついた魂たち――。“都会の孤独"の本当の意味を知る。
凄惨な殺人事件が続発する。独り暮らしの女性たちが監禁され、全身を刺されたかたちで発見されたのだ。
被害者の一人が通っていたコンビニエンス・ストアの強盗事件を担当した女性刑事は、現場に居合わせた不審な男を追うが、突然、彼女の友人が行方不明に。
孤独を抱える男と女のせつない愛、噴き上がる暴力――。『家族狩り』『永遠の仔』につながる、天童荒太のまさに出発点。
怖くてハラハラして、とても面白かった。
あ、才能ってこういうのだってなんか思いました。
孤独の解像度が高くて、それが余計に悲しくて美しい。
孤独の証明
夜の通りにひびくハイヒールの音のなかには、食って寝て愚痴を言って人を責め嘘をつき便秘と生理不順に悩んで……なんて日常の女の姿は、まったくうかがえない。暗く重たい現実を生きている女は消え、イメージとしての女、性のシンボル、個々の理想の女を、聞くものに生み、想像をふくらませていく。
解像度高すぎ!
一人暮らしの女性たちが次々と行方不明になっては無惨な遺体となって発見されるという胸糞な事件が勃発していた。
一方でカタコトの外国人?らしき男によるコンビニ強盗も並行して起きていた。
刑事の朝山風希は、コンビニ強盗の事件を担当するが、一方で「私を見つけて」という女性の声を聞く。
それは彼女の過去からの声なのか、今この時、犯人に監禁されている女性の声なのか、土の中で誰かに見つけられるのを待っている遺体なのかわからない。
真の哀しみ恨みを家族と共有しあわないことを、淋しいと思ったことがまったくないとは言えない。でもわたしは、濃密な息苦しさより、個々の時間と空間を尊重した、一種の冷たさ虚しさのほうをむしろ愛したい。ひとりには耐えれる。だが、自分が削られ失われてゆくことには、とても耐えられそうにない……。
誰にも言えない秘密を抱えている風希。その孤独を他人は解消しようとする。孤独は良くないものとされる。友達が少ない者や恋人がいない者は落伍者のように扱われる。しかし、風希は思うのだ。他人といることで自分が消耗することの方がよっぽど辛く耐えられない、と。
おれは、歩いていても、コンビニのカウンターのなかに入っても、奴を捜した。捜しているうちに、誰もが奴に見えてきた。いま目の前に立つ男を刺せば、それが誰であっても、あの男を刺すことになり、つまりはこの歪んだ世の中を刺すことになる気がした。
もう一人の主人公、フリーターの潤平はコンビニ店員だ。そして運悪く潤平のコンビニに強盗がやってきて、金を奪っていく。
恐怖で固まる潤平と、それをじっと見ていた同僚で中国人の高。高は逃げるコンビニ強盗の背後からモップで襲いかかり捕まえようとするのだが、寸前、コンビニ強盗に加勢する「後ろだ」という声が放たれる。
コンビニにいた、ただ一人の客。そいつが何者なのか。大衆に混ざり、匿名を盾に無責任に人を弄ぶ男。
高は振り向いた強盗に刺され血まみれになって倒れたのだった。
今よりもっと、一人であること、いわゆる”ぼっち”が異端とされた時代なんだろうな、と思う。だからこそ、孤独から逃れようとどんどん狂っていく。孤独の象徴とされた一人暮らしの女性。だけど、誰といたって人は一人。孤独は生なのだ。