深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

ひつじが丘/三浦綾子〜愛するとはゆるしつづけることだよ〜

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《内容》
愛とはゆるすことだよ、相手を生かすことだよ……つらくよみがえる父母の言葉。良一への失望を胸に、奈緒実は愛することのむずかしさをかみしめる。北国の春にリラ高女を巣立った娘たちの哀歓の日々に、さまざまの愛が芽生え、破局が訪れる。真実の生きかたを真正面から見すえて感動をよぶ「愛」の物語。

 

一度ゆるすのは頑張ればできる気がする。

でもゆるしつづける、何度もゆるす、それってものすごくむずかしいことだ。

 

ゆるしなさい。あなたもゆるされて存在しているのだから。

 

「そうだよ。お前は果たして、杉原君を生かすことができるかね。おとうさんが睨んだところでは、あの人間を生かすということは、ひどく骨の折れることだと思うがね。とても奈緒実には生かしきれまいな。へたをするところしてしまうことになる」

 

「まぁ、ひどいわ、おとうさん。わたしだって、人一人ぐらい愛することができるわ」

 

「そうかね。愛するとは、ゆるすことでもあるんだよ。一度や二度ゆるすことではないよ。ゆるしつづけることだ。杉原君をお前はゆるしきれるかね」

 

 神父と教徒の間に生まれた奈緒実は、二人の信頼という名の放置の元育てられた。両親は、自分達の子供なら、奈緒実なら、普段の自分達を見て必要十分に育ってくれるだろうと高をくくっていた。

 奈緒実は寂しかった。常に信心深い教徒たちと触れ合うことは、常にクリーンで見せかけの飾り物のような気がした。

 だからこそ杉原良一という男の無邪気さ、幼稚さ、自分勝手な破天荒さに奈緒実はひかれる。しかも両親が杉原を否定すればするほど、かわいそうな彼を守ってやりたいと躍起になる。

 奈緒実は両親の愛を振り切って杉原と駆け落ちするが、そこで待っていたのは杉原の浮気と暴力、束縛であった。

 何度もゆるそうと耐える奈緒実だったが、ついに女学校時代の同級生の輝子が杉原の子を妊娠したと知ったとき、奈緒実の心は凍りついてしまう。

 

「わたしだって、人一人ぐらい愛せます」

 父の耕助に高言したことを思い出しながら、一人の人間を愛しぬくということのむずかしさを、奈緒実は思わないわけにはいかなかった。

 

 一方、奈緒実に惹かれ続けている一人の男がいた。その男・竹山は奈緒実の女学校時代の先生であり杉原の友であった。

 竹山は奈緒実が良一と付き合うと聞いたとき、杉原が過去何人もの女と交際し、妊娠と堕胎をさせたのだと、先生としていうべきだと思ったが、良一の友としては言うべきではないと判断した。

 しかし、家財道具の一つも買ってもらえず、深夜まで帰ってこない飲兵衛の夫を待つだけの女になった奈緒実を見て、竹山もまた罪を感じずにはいられないのだった。

 

ゆるすことなんかできないと奈緒実は思った。

 

「奈緒実。人間同士というものはね、憎み合うように生まれついているんだ。お互いをうらぎるようにできているんだな。どんな誠実な人間だって、心の底では幾度人をうらぎっているかわからない」

 

 奈緒実は杉原を置いて一人実家に帰るが、両親は杉原との結婚に反対していたくせに、ゆるせ、というのだ。

 一方、奈緒実を追ってきた杉原は奈緒実の両親の愛に触れ改心して酒を断つようになる。そしてしつこくつきまとう輝子にも向き合い、奈緒実の許しを求めるのだが、奈緒実は決して杉原をゆるすことができないのだった。

あなただったらゆるせるだろうか?

奈緒実は一生、このゆるしを追求していくのだろう。そんな生き方が私にはできるだろうか?