《内容》
昭和初期、軍国主義の台頭に苦しむ若き教師の物語。 昭和2年、旭川の小学生竜太は、担任に憧れる。成長し、教師になるが、理想の教育に燃える彼を阻むものは、軍国主義の勢いであった。軍旗はためく昭和を背景に戦争と人間の姿を描いた感動の名作。
三浦さんの作品って主人公はいいやつなんだけど、別に出来た人間ってわけではない。それより周りの大人が人格者ってことが多い。まさしく迷える子羊が主人公で、つまり主人公に共感することは、自分も迷える子羊で、クリスチャンの素質があるのでは?なんて思ったりするのだった。
でもそれを言ったら、完璧な人間なんていないから、全員クリスチャンになっちゃうな。却下!
僕たちはどう生きるか
「ぼくは母さんに叱られるから神棚拝むけどさ、神さまはいないと思ってるよ。だって、見たことないもの。見ないものを、いるいるって思ってるの、ちょっとおかしいと思うんだ。これ、楠夫ちゃんの受売りだけどな」
「なるほど、見たこともなければ、声も聞いたこともないか。信ずるという字はね、人の言と書くんだ。見たことも聞いたこともないけど、神さまってこういう方だよって教えてくれた言葉を信ずるのが、信仰なんだな」
物語は主人公の竜太の波瀾万丈な人生を描いている。
旭川の有名な質屋の長男として生れた竜太は、裕福で平和な家で暮らす家の子どもらしくのんびりとしていて素直であった。
素直な竜太は、天皇陛下のお葬式の綴り方(作文)で、足が寒くて冷たかった、と書いてしまう。担任の河地は天皇陛下のご大葬だというのに、自分の足が冷たかったなどと書いて恥ずかしくないのか、と激怒し、竜太の両頬を殴りつけ書き直しを命じる。
班長であった竜太は初めて人に殴られ、激怒されたことで深く傷つく。綴り方とは、自由なものではないのか、と疑問を持ち、自分の気持ちでないものを、先生に怒られたから、先生に認められるために綴るのは、果たして正しいことなのか、と考える。
そんな竜太の次の担任が坂部先生であり、彼が竜太の鬱蒼とした混乱を解いてくれた。綴り方は好きなことを書けばいいのだと、そう教えてくれた心根の優しく芯の強い先生を尊敬し、竜太の夢は「坂部先生のような教師になる」となった。
しかし、この綴り方への情熱が、実際に起きた「北海道綴方教育連盟事件」の誤認逮捕に繋がり、竜太は不当な逮捕と退職に迫られ、坂部先生は拷問の果てに亡くなってしまう。
「同じだよ、竜太。自分がこんなに弱い人間であったかと、何度自分に愛想が尽きたことか。しかしね竜太、自分にとって最も大事なこの自分を、自分が投げ出したら、いったい誰が拾ってくれるんだ。自分を人間らしくあらしめるのは、この自分しかないんだよ」
竜太は刑事の計らいで、同じく拘束された坂部先生とほんの一瞬会うことが出来た。突然の逮捕で、自由を失うだけでなく、教職まで奪われ、絶望の淵に立っていた竜太は坂部先生に会い涙をこぼす。
坂部先生は不当な逮捕に傷つき怯え絶望する教え子に、言葉を与える。竜太は再び頑張ろうと持ち直し、数ヶ月後、保護観察付きで釈放となる。
しかし、釈放された後も坂部先生はいないし、職に就こうとしても保護観察という名目でしつこく尾行する警察に対して、長く仕事を続けることは出来なかった。
なんとか質屋で働くが、幼なじみで恋人の芳子と心機一転、満州で再度教師になろうとしたとき、赤紙が届き、竜太は一人、軍人として満州に赴くこととなる。
何も悪くない竜太が、時代によって全く自分の人生を歩めない。その中でどうやって生きていくのか、それがこの物語です。