深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

マクベス/シェイクスピア~七つの大罪における貪欲の物語~

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≪内容≫

かねてから、心の底では王位を望んでいたスコットランドの武将マクベスは、荒野で出会った三人の魔女の奇怪な予言と激しく意志的な夫人の教唆により野心を実行に移していく。王ダンカンを自分の城で暗殺し王位を奪ったマクベスは、その王位を失うことへの不安から次々と血に染まった手で罪を重ねていく……。シェイクスピア四大悲劇中でも最も密度の高い凝集力をもつ作品である。

 

きれいは穢い・・・・穢いはきれい・・・

 

シェイクスピア作品、言葉がすごく素敵です。

 

無欲の勝利という言葉がありますが、私は結構この言葉を信じています。

欲が意識的な欲になったら堕ちていくしかないような気がするんです。

 

夫人の名言

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世間を騙すには、世間と同じ顔色をなさらねば。目にも、手にも、舌にも、歓迎のお気もちを表して。無心の花と見せかけ、そのかげには蛇とか。

(マクベス夫人)

 

 

まあ、ちっともおもてなしをなさらないで。せっかくの宴も、おいでいただいた喜びを、こちらでたえず口にしていなければ、料理屋で食事なさるとおなじこと、どなたにしても、飲み食いだけなら、自分の家に越したことはありませぬ、招かれてのご馳走では、款待こそ、お料理の味つけ、それがなくては、どんな集いも味気のうございます。

(マクベス夫人)

 

 

どこへ逃げたら?何も悪いことをした覚えはない。いいえ、この世に生きているのだ、ここでは、悪いことをして、かえって賞められ、よいことをして、危ない目にあい、ばか呼ばわりもされかねない、そうだとすれば、悪いことをした覚えはないなどと、所詮は女の愚痴でしかないのか?

(マクダフ夫人)

 

はえ~。なるほど、といった言葉がたくさんあります。

特に 飲み食いだけなら、自分の家に越したことはありませぬの部分。

自分だけじゃないのね、と安心しました。笑

 

マクベスは笑えるところが全然なくって、ハラハラ、え?どーすんの?大丈夫なの?という気持ちに終始なりました。

 

なんか可哀相でした、やはり自分の意思で動いていない人間を見るのは苦しいですね。暗殺をやめたくても夫人にせっつかれて引くに引けなくて殺してしまう。

 

他人のたった一言で、自分の心に悪が宿る。

しかしその一言に反応するということは、自分でも気付かない根底で望んでいたことだったり・・・する。

 

深層心理

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そもそもマクベスは王を殺そうなんて思っていなかったと思うんですよ。

だけど、三人の魔女が

 

第一の魔女:よう戻られた、マクベス殿!お祝申し上げますぞ、グラミスの領主様!

 

第二の魔女:よう戻られた、マクベス殿!お祝申し上げますぞ、コーダの領主様!

 

第三の魔女:よう戻られた、マクベス殿!いずれは王ともなられるお方!

 

とか言い出したので、ここからマクベスは魔女たちの言霊に翻弄されていくのです。

この言葉が預言であり、実行するべき事柄なのだと信じて。

 

もしマクベスが「王になりたい」と微塵にも思っていなかったら魔女の言葉は効果を持たなかったでしょう。

 

魔女や悪魔にそそのかされるのは、心に隙があるからなのです。

本当の望み、実は欲しかった名声、隠していた欲望に手を出して引っ張り出すのが彼らなのです。

 

日本だと魔女というと魔女の宅急便のキキがキュート過ぎて、あまり邪悪なイメージはありませんが、欧州の歴史では結構怖い存在として描かれていますよね。

 

ゆえに魔女の登場に対してあまり不吉なイメージを抱けないですが、彼女たちが冒頭で出てきた瞬間から悲劇は始まっていたのだな、と読後思いました。

 

 

きれいは穢い、穢いはきれい

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この美しくて残酷な何とも心に残る言葉は何なのか。

 

勇ましく勇敢なマクベスは見た目には美しい、しかし根本には穢い貪欲がある。

見た目には穢い死体こそ勝利者であるという勝利の美学。

 

何か、この作品すごく七つの大罪を感じるんですよね。

七つの大罪の「貪欲」。

冒頭に出てくるヒキガエルは、七つの大罪を描いたボスが悪の象徴として描いている生物です。

しかも中世における七つの大罪における生物の役割は

 

憤怒・・・熊

嫉妬・・・七面鳥

貪欲・・・ヒキガエル(ガマ)

大食・・・豚

怠惰・・・ロバ

好色・・・鶏

傲慢・・・孔雀

 

なんです。

ぴったり合いますよね、マクベスの貪欲さと第二の魔女の「ひき蛙が呼んでいる」という冒頭のセリフは。

ここからすでに「貪欲」の物語だというメッセージを感じます。

 

ボスの系統を受け継いだブリューゲルは「死の勝利」という作品を残しています。

この図説で見たのですが、「ここは戦場であって、戦争の勝利者は常に死であることを告げる。」と解説されていました。

 

死は穢れであるという思考はどこの国でもあったと思うのですが、マクベス=きれいは穢い、マクベスによって殺されていく死者=穢いはきれい、なのではないかなぁとひそかに思います。

 

近々バベルの塔展に行くので勉強していたのですが、ボスとかブリューゲルの地獄への

執着というか、地獄や罪、罰、といった絵が多く、今ではファンタジーである悪魔や魔女がこの時代には本当に信じられていたんだろう、と思いました。

 

シェイクスピアはブリューゲルの亡くなる5年前くらいに誕生していますが、こういった思想も含ませているのではないかなぁ、と思います。

 

今は日本史をほとんど教科書程度にしか知らないので世界史と比べられる知識がないのですが、西洋文化って面白いなぁって思います。

美術しかり、西洋古典しかり。

道化の存在とか衣装とかなんなんだよwという面白さがハンパないです。