深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

書評-青春・ファンタジー・感動

きみの鳥はうたえる・草の響き/佐藤泰志〜人の気持ちに触れないと言った旗持ちの少年の言葉は本当だ〜

《内容》 郊外の書店で働く「僕」といっしょに住む静雄、そして佐知子の悲しい痛みにみちた夏の終わり…世界に押しつぶされないために真摯に生きる若者たちを描く青春小説の名作。読者の支持によって復活した作家・佐藤泰志の本格的な文壇デビュー作であり、…

万事快調〈オール・グリーンズ〉/波木 銅〜現実に因果応報なんてないからさ、やり方次第で、応報される前に因果から逃げ切るのだって余裕!〜

《内容》 主人公は北関東の“クソ田舎”の工業高校に通う朴秀美。地元の閉塞感や機能不全を起こした家族に絶望し、ヒップホップとSF小説を心の逃げ場としていた彼女は、ある出来事を機に〈大麻の種〉を入手する。これがあれば今の状況から逃げ出せるかもしれな…

黄金の服/佐藤泰志〜何がなんでも勝ちたければ、自分でバッターボックスに立てばいい〜

《内容》 泳いで、酔っ払って、泳いで、酔っ払って…。夏の大学町を舞台に、若い男女たちが織りなす青春劇。暑い季節の中で、「僕」とアキ、文子、道雄、慎の四人は、プールで泳ぎ、ジャズバーで酒を飲み、愛し合い、他の男たちと暴力沙汰になり、無為でやる…

十代に共感する奴はみんな嘘つき/最果タヒ~十代にとって世の中は戦場~

《内容》 女子高生の唐坂和葉は17歳。隣のクラスの沢くんへの告白の返事は「まあいいよ」。いつもヘッドフォンをつけていて「ハブられている」クラスメイトの初岡と、沢の会話を聞きながら、いろいろ考える。いじめのこと、恋愛のこと、家族のこと。十代のめ…

カステラ/パク・ミンギュ~なぜこの電車は、人生は、この世は、いつも揺れているんだろう~

《内容》 現代韓国文学の人気作家・パク・ミンギュのロングセラー短編小説集。洒脱な筆致とユーモアあふれる文体で、主人公の若者たちを取り巻く「就職難」「格差社会」「貧困の様相」etcを描きながら、彼ら彼女たちに向ける眼差しを通して、人間存在への確…

スタンド・バイ・ミー/スティーヴン・キング~友達は、数ではなく、どこまで同じ苦しみなりなんなりを共闘できるか~

≪内容≫ 森の奥に子供の死体がある──噂を聞いた4人は死体探しの旅に出た。もう子供ではない、でもまだ大人にも成りきれない少年たちの冒険が終ったとき、彼らの無邪気な時代も終ったのだった……。誰もが経験する少年期特有の純粋な友情と涙を描く表題作は、作…

ピンポン②~自分の生き方次第で誰でも空間と次元を移動できる~

≪内容≫ 原っぱのど真ん中に卓球台があった。どういうわけか、あった。僕は毎日、中学校でいじめられている。あだ名は「釘」。いじめっ子の「チス」に殴られている様子は、まるで釘を打っているみたいに見えるからだ。スプーン曲げができる「モアイ」もいっし…

ピンポン①/パク・ミンギュ~強い人間と弱い人間→いじめと想像力の話→そして愚痴になった~

≪内容≫ 原っぱのど真ん中に卓球台があった。どういうわけか、あった。僕は毎日、中学校でいじめられている。あだ名は「釘」。いじめっ子の「チス」に殴られている様子は、まるで釘を打っているみたいに見えるからだ。スプーン曲げができる「モアイ」もいっし…

また、同じ夢を見ていた/住野よる~正論側のタイミングでやるから上手くいかないこともある~

≪内容≫ 友達のいない少女、リストカットを繰り返す女子高生、アバズレと罵られる女、一人静かに余生を送る老婆。彼女たちの“幸せ"は、どこにあるのか。「やり直したい」ことがある、“今"がうまくいかない全ての人たちに送る物語。 住野さんは三作目ですが、…

池袋ウエストゲートパーク/石田衣良~大人たちは良いことを教えるけど、死ぬほど好きになれる何かを教えてくれるわけじゃない。~

≪内容≫ 池袋西口公園(おれたちはカッコつけるときはいつも「ウエストゲートパーク」と呼んでいた)の本当の顔は週末の真夜中。噴水のまわりの円形広場はナンパコロシアムになる。ベンチに女たちが座り、男たちはぐるぐると円を描きながら順番に声をかけていく…

ひとなつの。/~キラキラは永遠に続くものじゃないけれど~

≪内容≫ 7月のある日、「郵便」を発見したぼくの、胸がきゅんとするやりとり―(「郵便少年」森見登美彦)。映画の撮影用に借りた家に住むことになった映画監督の息子の夏(「フィルムの外」大島真寿美)。浪人2年目の夏、青春18きっぷを片手に出かけたあてのない…

天空の犬/樋口明雄~山と犬が教えてくれること~

≪内容≫ 標高3,193mを誇る北岳の警備派出所に着任した、南アルプス山岳救助隊の星野夏実は、救助犬メイと過酷な任務に明け暮れていた。苦楽を分かち合う仲間にすら吐露できない、深い心の疵に悩みながら―。やがて、登山ルートの周りで不可解な出来事が続けざ…

家守綺譚/梨木香歩~在るがままを受け入れる美しさを感じる物語~

≪内容≫ 庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多……本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」…

最後の息子/吉田修一~海に近い土地って何か特別(独特)なものがあるのかなぁ?~

≪内容≫ 新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「W…

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。/辻村深月~母、娘、友達、女、30歳前後・・・とりあえず左記にあたる人は読んでみてほしい小説~

≪内容≫ 地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らか…

光待つ場所へ /辻村深月~人生は短いから欲望の名前をはっきりさせなきゃ~

≪内容≫ 大学二年の春。清水あやめには自信があった。世界を見るには感性という武器がいる。自分にはそれがある。最初の課題で描いた燃えるような桜並木も自分以上に表現できる学生はいないと思っていた。彼の作品を見るまでは(「しあわせのこみち」)。書下…

ロードムービー/辻村深月~いつかどこか正しい場所を見つけて平気になるから大丈夫なんだ~

≪内容≫ 運動神経抜群で学校の人気者のトシと気弱で友達の少ないワタル。小学五年生の彼らはある日、家出を決意する。きっかけは新学期。組替えで親しくなった二人がクラスから孤立し始めたことだった。「大丈夫、きっとうまくいく」(「ロードムービー」)。い…

本日は大安なり/辻村深月~終わりよければすべて良し!~

≪内容≫ 企みを胸に秘めた美人双子新婦、プランナーを困らせるクレーマー夫妻、新婦に重大な事実を告げられないまま、結婚式当日を迎えた新郎……。人気結婚式場の一日を舞台に人生の悲喜こもごもをすくい取る。 タイトルからしてハッピーエンドになるとは分か…

マウス/村田沙耶香~いい子なのに好かれない、自己中なのに認められる~

≪内容≫ 私は内気な女子です――無言でそう訴えながら新しい教室へ入っていく。早く同じような風貌の「大人しい」友だちを見つけなくては。小学五年の律(りつ)は目立たないことで居場所を守ってきた。しかしクラス替えで一緒になったのは友人もいず協調性もない…

有頂天家族 二代目の帰朝 /森見登美彦~全ては阿呆の血のしからしむところで~

≪内容≫ 狸の名門・下鴨家の矢三郎は、親譲りの無鉄砲で子狸の頃から顰蹙ばかり買っている。皆が恐れる天狗や人間にもちょっかいばかり。そんなある日、老いぼれ天狗・赤玉先生の跡継ぎ〝二代目〟が英国より帰朝し、狸界は大困惑。人間の悪食集団「金曜俱楽部…

有頂天家族/森見登美彦~面白く生きるということは生きるということを全肯定していると思う~

≪内容≫ 「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて…

名前探しの放課後/辻村深月~きちんと間違えることから始めよう~

≪内容≫ 依田いつかが最初に感じた違和感は撤去されたはずの看板だった。「俺、もしかして過去に戻された?」動揺する中で浮かぶ1つの記憶。いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに相談を持ちかける。「今から俺たちの同級生が自殺する。でもそれが誰なの…

しろいろの街の、その骨の体温の/村田沙耶香~正しさなんて教室では何の役にもたたない~

≪内容≫ クラスでは目立たない存在である小4の結佳。女の子同士の複雑な友達関係をやり過ごしながら、習字教室が一緒の伊吹雄太と仲良くなるが、次第に伊吹を「おもちゃ」にしたいという気持ちが強まり、ある日、結佳は伊吹にキスをする。恋愛とも支配ともつ…

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦~恋は理屈じゃないのと、ミュシャ展の感想なむなむ!~

≪内容≫ 「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受け…

ぼくのメジャースプーン/辻村深月~善悪のさじ加減について考えてみよう~

≪内容≫ ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがあ…

鳥打ちも夜更けには/金子薫~どこにもエネルギーがなくって、誰にも情熱がない世界~

≪内容≫ 古典『見聞録』で楽園と謳われた島の架空の港町。新町長の下「鳥打ち」の職に就く三人の青年に最大の転機が…自我と自由を巡る傑作! 現実は非現実、非現実は現実。 どこまでがリアルで、どこまでが夢なのか。 そもそも、それさえも知る必要なんてない…

少女ABCDEFGHIJKLMN/最果タヒ~きみの無視が、きょうからすこし、苦しくって心地いい~

≪内容≫ 好き、それだけがすべてです。最果タヒがすべての少女に贈る、本当に本当の「生」の物語! あとがきより 少女が幸せになる方法を学んでいく時間が、青春であるなんていうのは嘘だ。そんな方法はどうやっても学べない。幸せを切り捨てて行くのが青春で…

ネンレイズム/開かれた食器棚/山崎ナオコーラ~年齢に価値や信頼を置くのは貧しい~

≪内容≫ おばあさんっぽくなりたい18歳の私、今を生きたい紫さん、ゆっくり歳をとりたい加藤くんーー高3の特別な冬を描く著者最高傑作! 作家さんてやっぱ視点がすごいな、と思う。 若くありたい!と思うときは多くても、おばあちゃんになりたい!と思ったとき…

ペンギンハイウェイ/森見登美彦~大いなる母性を感じよ!~

≪内容≫ 小学四年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンたちが現れた。この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした。未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説。 こちらはSF大賞受賞作ということ…

太陽の塔/森見登美彦~愛すべきバカとは反骨精神の持ち主のことである。~

≪内容≫ 私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ…