深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

書評-哲学

暇と退屈の倫理学/國分功一郎~生きることはバラで飾られねばならないが飾るためにはコツがいる~

《内容》 暇とは何か。人間はいつから退屈しているのだろうか。答えに辿り着けない人生の問いと対峙するとき、哲学は大きな助けとなる。著者の導きでスピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなど先人たちの叡智を読み解けば、知の樹海で思索する喜びを発見…

血と暴力の国~血が流れなくても暴力がなくても、世界は血と暴力の国である~

≪内容≫ ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境近くで、撃たれた車両と男たちを発見する。麻薬密売人の銃撃戦があったのだ。車には莫大な現金が残されていた。モスは覚悟を迫られる。金を持ち出せば、すべてが変わるだろう…モスを追って、危険な殺人者が動…

サリンジャー選集 (別巻1) ハプワース16、一九二四~神に祈ろうが問題は全て自己の内にある~

≪内容≫ グラース家の長男、7歳のシーモア・グラースが、1924年の夏休みにメイン州のキャンプ地・ハプワースに来てから16日目に家族に送った長い手紙を、1965年に弟バディがタイプライターで書き写している、という形式で叙述される書簡体小説。シーモアの、…

大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章/サリンジャー~愛が悲しいものだということを神は知っている。~

≪内容≫ 画一化された価値観を強いる現代アメリカ社会にあって、繊細な感受性と鋭敏な洞察力をもって個性的に生きようとするグラース家の七人兄妹たち。彼らの精神的支柱である長兄シーモアは、卑俗な現実を嫌悪し、そこから飛翔しようと苦悶する―。ついに本…

グランド・マザーズ/ドリス・レッシング~美は無知を隠すし、人は美にそれ以上を求めない~

≪内容≫ 幼い頃から双子の姉妹のように育ったロズとリル。二人は今、各々息子と孫娘を連れて、光る海の見えるレストランのテラスで、昼下がりの幸福なひと時を過ごしている。だがこの何気ない家族の風景にはある秘密が隠されていた…。互いに相手の息子との恋(…

眼球譚(初稿)/バタイユ~この世界がまっとうに思えない人たちへ~

《内容》 一九二八年にオーシュ卿という匿名で地下出版されたバタイユの最初の小説。本書は、著者が後に新版として改稿したものと比べて全篇にわたって夥しい異同がある。サド以来の傑作と言われるエロティシズム文学として、「球体幻想」を主軸に描き上げた…

愛撫・静物ほか/庄野潤三~静止した家族の不健康さよ~

≪内容≫ 妻の小さな過去の秘密を執拗に問い質す夫と、夫の影の如き存在になってしまった自分を心許なく思う妻。結婚三年目の若い夫婦の心理の翳りを瑞々しく鮮烈に描いた「愛撫」。幼い子供達との牧歌的な生活のディテールを繊細な手付きで切り取りつつ、人生…

姫君/山田詠美~短編集には短編集にしかない魅力がある~

≪内容≫ 「母が首を吊ったのを見つけた時、ぼくが、まだ五歳だったのは幸せなことだ。十歳だったら泣きわめいていただろうし、十五歳だったら心の病気にかかってた。今だったらどうだろう。きっと笑ってた。二十歳。もう、ぼくは、人が、おかしくなくても笑う…

壁を破る言葉/岡本太郎~OASISで一番好きな曲はWONDERWALL~

≪内容≫ 出口を探している、すべての人へ。なぜ、創るのか。なぜ、生きるのか。岡本太郎から強烈な一撃!ベストセラー「強く生きる言葉」に続く第2弾。 壁って色んな表現が出来ますね。 破るとか乗り越えるとか壊すとか。 wonderwallとか。 ワンダーウォール…

純粋異性批判 女は理性を有するのか?/中島義道~自分の主観的好みと客観的美って切り離せる?~

≪内容≫ 「仕事と私とどっちが大事なの!」「浮気するなら私にわからないようにして!」……男には決して理解できない女の論理は、一体どこから生まれるのか?カントの『純粋理性批判』の構成に倣いつつ、「女という不可解」を徹底解剖する大胆不敵な女性論にして…

星が吸う水 /村田沙耶香~言葉のほんとうの意味は自分で見出すことの大切さ~

≪内容≫ 恋愛ではない場所で、この飢餓感を冷静に処理することができたらいいのに。「本当のセックス」ができない結真と彼氏と別れられない美紀子。二人は「性行為じゃない肉体関係」を求めていた。誰でもいいから体温を咥えたいって気持ちは、恋じゃない。言…

ハコブネ/村田沙耶香~人は色んなものに縛られ、縛って生きているよな~

≪内容≫ 十九歳の里帆は男性とのセックスが辛い。自分の性に自信が持てない彼女は、第二次性徴をやり直そうと、男装をして知り合いの少なそうな自習室に通い始める。そこで出会ったのは、女であることに固執する三十一歳の椿と、生身の男性と寝ても実感が持て…

ギンイロノウタ/村田沙耶香~殺人という通過儀礼を通して世界に触れるよ~

≪内容≫ 極端に臆病な幼い有里の初恋の相手は、文房具屋で買った銀のステッキだった。アニメの魔法使いみたいに杖をひと振り、押入れの暗闇に銀の星がきらめき、無数の目玉が少女を秘密の快楽へ誘う。クラスメイトにステッキが汚され、有里が憎しみの化け物と…

タダイマトビラ/村田沙耶香~個を捨てて種として生きるトビラ~

≪内容≫ 母性に倦んだ母親のもとで育った少女・恵奈は、「カゾクヨナニー」という密やかな行為で、抑えきれない「家族欲」を解消していた。高校に入り、家を逃れて恋人と同棲を始めたが、お互いを家族欲の対象に貶め合う生活は恵奈にはおぞましい。人が帰る所…

カント 美と倫理とのはざまで/熊野 純彦~美しい人って自然な人のことを言う~

≪内容≫ 生の目的とは?世界が存在する意味とは?カントの批判哲学が最後に辿りついた第三の書『判断力批判』から、その世界像を読み解く鮮烈な論考。 パラパラ~っとめくって目についたのは 芸術とは「天才」の技術である それだけで読みたい!と手に取ってし…

授乳/村田沙耶香~一つの世界に自分を委ねることはとてもグロテスク~

≪内容≫ 受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は週に2回。火曜に数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはず…

消滅世界/村田沙耶香~人間は生きてるだけで汚い。けれど・・・~

≪内容≫ 「セックス」も「家族」も、世界から消える。日本の未来を予言する圧倒的衝撃作。 現代の流れに乗っている内容だな、と思います。 男性も女性も一人で生きていける時代、孤独死が増え核家族が大半の現代で、セックスと家族の必要性ってどこにあるんだ…

殺人出産/村田沙耶香~価値観がぶっ壊れるのは気持ちいい~

≪内容≫ 「産み人」となり、10人産めば、1人殺してもいい──。そんな「殺人出産制度」が認められた世界では、「産み人」は命を作る尊い存在として崇められていた。育子の職場でも、またひとり「産み人」となり、人々の賞賛を浴びていた。素晴らしい行為をたた…

A/中村文則~人からどう思われようが、飯を食い続けろ!~

≪内容≫ 「一度の過ちもせずに、君は人生を終えられると思う?」――いま、世界中で翻訳&絶賛される作家が贈る、13の「生」の物語。 今回は短編集。エロイのも入ってます。そしてオモロイのも。笑うん、オモロイのがやっぱり好きです。 三つの車両 どの駅にも停…

世界の果て/中村文則~ゴミ屋敷を色んな人に読んでもらいたい~

≪内容≫ 部屋に戻ると、見知らぬ犬が死んでいた―。「僕」は大きな犬の死体を自転車のカゴに詰め込み、犬を捨てる場所を求めて夜の街をさまよい歩く(「世界の果て」)。奇妙な状況におかれた、どこか「まともでない」人たち。彼らは自分自身の歪みと、どのよう…

悪意の手記/中村文則~結局人を巻き込んで悩みを吐き出せるのは正常な人間にしか与えられていないのかもしれない~

≪内容≫ 至に至る病に冒されたものの、奇跡的に一命を取り留めた男。生きる意味を見出せず全ての生を憎悪し、その悪意に飲み込まれ、ついに親友を殺害してしまう。だが人殺しでありながらもそれを苦悩しない人間の屑として生きることを決意する―。人はなぜ人…

何もかも憂鬱な夜に/中村文則~人間に備わっている一番の能力は想像力~

≪内容≫ 施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の…

最後の命/中村文則~罰っていうのは究極の意味では気休めにしかならないんだ~

≪内容≫ 最後に会ってから七年。ある事件がきっかけで疎遠になっていた幼馴染みの冴木。彼から「お前に会っておきたい」と唐突に連絡が入った。しかしその直後、私の部屋で一人の女が死んでいるのが発見される。疑われる私。部屋から検出される指紋。それは「…

教団X/中村文則~皆、何かと繋がりたい~

≪内容≫ 謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇…

これからの「正義」の話をしよう/マイケル・サンデル~しかし、やってみないことには、わからない~

≪内容≫ 「1人を殺せば5人が助かる。あなたはその1人を殺すべきか?」正解のない究極の難問に挑み続ける、ハーバード大学の超人気哲学講義“JUSTICE”。経済危機から大災害にいたるまで、現代を覆う苦難の根底には、つねに「正義」をめぐる哲学の問題が潜んでい…

宗教の理論/バタイユ~労働によって人間になり、労働によって自由を奪われ、労働によって死を怖れる~

≪内容≫ ミシェル・フーコーをして「今世紀で最も重要な思想家のひとり」と言わしめたジョルジュ・バタイユは、思想、文学、芸術、政治学、社会学、経済学、人類学等で、超人的な思索活動を展開したが、本書はその全てに通底・横断する普遍的な“宗教的なるも…

エロスの涙/バタイユ~洞窟壁画や西洋絵画が裸体だったりエロイのはなんでだろう~

≪内容≫ 「私が書いたもののなかで最も良い本であると同時に最も親しみやすい本」と自ら述べた奇才バタイユの最後の著書。人間にとってエロティシズムの誕生は死の意識と不可分に結びついている。この極めて人間的なエロティシズムの本質とは、禁止を侵犯する…

エロティシズム/バタイユ~やっちゃだめ(禁止)と言われるとやりたくなる心理(侵犯)~

≪内容≫ 労働の発生と組織化、欲望の無制限な発露に対する禁止の体系の成立、そして死をめぐる禁忌…。エロティシズムの衝動は、それらを侵犯して、至高の生へ行き着く。人間が自己の存続を欲している限り、禁止はなくならない。しかしまた人間は、生命の過剰…

差別感情の哲学/中島義道~人の能力の差異を認めた上で、なぜフェアな戦いを要求するのか~

≪内容≫ 差別とはいかなる人間的事態なのか? 他者に対する否定的感情(不快・嫌悪・軽蔑・恐怖)とその裏返しとしての自己に対する肯定的感情(誇り・自尊心・帰属意識・向上心)、そして「誠実性」の危うさの考察で解明される差別感情の本質。自分や帰属集団を誇…

訪問者/城/エッグ・スタンド/天使の擬態/萩尾望都~お城を作る石の数は白と黒と半分ずつと決まっている~

≪内容≫ オスカーの出生にまつわる秘密……。それが父母の愛を破局に導き、思いがけない悲劇を呼び寄せた。母を亡くしたオスカーと父グスタフのあてどもない旅が始まる。名作「トーマの心臓」番外篇表題作ほか、戦時下のパリで世界の汚れを背負った少年の聖なる…