深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

書評-村上春樹

一人称単数/村上春樹〜問題は語られていない部分にある。語る側は自分に都合のいいことしか語らない。〜

《内容》 「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あな…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をどう読むか〜愛は差別化と排除によって成り立つ〜

《内容》 超話題の春樹の新作は名作なのか問題作なのか。そして何を問いかけるのか——強力なメンバーで謎めいたその世界へ挑む必読の一冊を緊急刊行。豊崎由美×大森望、加藤典洋、安藤礼二など。 今更感満載ですがw ふと他の人の感想が気になって読んでみまし…

猫を棄てる 父親について語るとき/村上春樹~文化的雪かきは親子の歴史から始まる~

《内容》 時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある。ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた。―村上文学のあるルーツ。 なんという私的な…

騎士団長殺し/村上春樹~やたら金の心配をする主人公と、無職なのに力のある免色~

≪内容≫ その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。…

東京奇譚集/村上春樹~要らないものを要らないと自分で理解するための読書~

≪内容≫ 肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却……。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生…

1Q84/村上春樹~もっとも見慣れた場所ともっとも得意とする行為が生む二つの月~

≪内容≫ 「こうであったかもしれない」過去が、その暗い鏡に浮かび上がらせるのは、「そうではなかったかもしれない」現在の姿だ。書き下ろし長編小説。 今までの村上さんの作品の主人公は「奪われる側」にいたんですが、今回は「奪う側」にも属しています。 …

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹~才能があるとかないとか~

≪内容≫ 多崎つくるは鉄道の駅をつくっている。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。理由も告げられずに。死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新…

少年カフカ/村上春樹~静かにタフになりましょう~

≪内容≫ 「海辺のカフカ」出版以前に公式ホームページで読者とのやりとりをした、往復2440通を掲載。さらに著者自身が初めて自分自身について語る。村上春樹の研究書としても面白い、「海辺のカフカ」マガジン。 ブログ書きたくて書きたくてしょーがないんで…

アフターダーク/村上春樹~アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット~

≪内容≫ 時計の針が深夜零時を指すほんの少し前、都会にあるファミレスで熱心に本を読んでいる女性がいた。フード付きパーカにブルージーンズという姿の彼女のもとに、ひとりの男性が近づいて声をかける。そして、同じ時刻、ある視線が、もう一人の若い女性を…

海辺のカフカ/村上春樹~自分を信じることが誰かを助けることに繋がると思うのです~

≪内容≫ 「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター…

神の子どもたちはみな踊る/村上春樹~UFOは誰の胸の中にも潜伏している~

≪内容≫ 1995年1月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。そして2月、流木が燃える冬の海岸で、あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、かえるくんが地底でみみずくんと闘う東京で、世界はしずかに共振をはじめる……。大地は裂けた。神は、いないのかも…

夜のくもざる/村上春樹~読書もたまにはストレッチ的に~

≪内容≫ 海亀の執拗な攻撃から僕らの身を守ってくれた秘密兵器とは? ヒトは死んだらどこにいくのだろう? ――読者が参加する小説「ストッキング」から、オール関西弁で書かれた「ことわざ」まで、謎とユーモアに満ちた「超短篇」小説が36本! (さらに替え歌「朝…

中国行きのスロウ・ボート/村上春樹~物をもらい慣れるというのも偉大な才能のひとつ~

≪内容≫ 青春の追憶と内なる魂の旅を描く表題作ほか6篇。著者初の短篇集。 本作は1986年の本で、私が今まで読んだ村上作品は、この本より後に出されたものが大半です。 まだ洗練されていない青年のような感じがしました。 いつもより、もっと迷っていて、もっ…

スプートニクの恋人/村上春樹~理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない~

≪内容≫ 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。―そんなとても奇…

TVピープル/村上春樹~独り言は溶けて消えてしまわないためにうまれるのだ~

≪内容≫ 不意に部屋に侵入してきたTVピープル。詩を読むようにひとりごとを言う若者。男にとても犯されやすいという特性をもつ美しい女性建築家。17日間一睡もできず、さらに目が冴えている女。―それぞれが謎をかけてくるような、怖くて、奇妙な世界をつくり…

ねじまき鳥クロニクル第三部♦鳥刺し男編/村上春樹

≪内容≫ 僕は少しずつ核心に近づいている。猫は戻る、笠原メイは遠い場所から手紙を書き続ける、間宮中尉はもうひとつの秘密を打ち明ける。ねじまき鳥に導かれた謎の迷宮への旅。第3部完結編。 新しい重要なキャラクターが出てきます。 この作品は今までの村…

ねじまき鳥クロニクル第二部♦予言する鳥編/村上春樹

≪内容≫ 致命的な記憶の死角とは?失踪したクミコの真の声を聴くため、僕は井戸を降りていく。 第二部はタイトル「ねじまき鳥」のねじについての話が出てきます。 自らを「ねじまき鳥」という主人公は、笠原メイに「ねじまき鳥さん」と話しかけられます。 最初…

ねじまき鳥クロニクル♦第一部泥棒かささぎ編/村上春樹

≪内容≫ ねじまき鳥が世界のねじを巻くことをやめたとき、平和な郊外住宅地は、底知れぬ闇の奥へと静かに傾斜を始める…。駅前のクリーニング店から意識の井戸の底まで、ねじのありかを求めて探索の年代記は開始される。 すごく面白いです。 三部作なので読め…

回転木馬のデッド・ヒート/村上春樹~否定も時には救いになる~

≪内容≫ 現代の奇妙な空間―都会。そこで暮らす人々の人生をたとえるなら、それはメリー・ゴーラウンド。人はメリー・ゴーラウンドに乗って、日々デッド・ヒートを繰りひろげる。人生に疲れた人、何かに立ち向かっている人…、さまざまな人間群像を描いたスケッ…

レキシントンの幽霊/村上春樹~綺麗に冷凍保存されるための今なんていやだ~

≪内容≫ 氷男は南極に戻り、獣はドアの隙間から忍び込む。幽霊たちはパーティに興じ、チョコレートは音もなく溶けてゆく。短篇七篇を収録 寂しかったり悲しかったり怖かったりする話。 村上春樹の小説の中でも割と分かりやすい一冊かな、と思いました。 やは…

螢・納屋を焼く・その他短編/村上春樹~たった一回負けてすべてが終わるなら勝負なんかしたくない~

≪内容≫ 秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりで…

象工場のハッピーエンド/村上春樹~ほろ酔い気分で読むと倍楽しい(たぶん)~

≪内容≫ 名作『象工場のハッピーエンド』の復刊。長い間、絶版になっていた単行本を、読者の声にこたえて復刊する。安西水丸の明るく楽しいイラストと、村上春樹がそこから喚起された文章で、ある世界を構築する 久しぶりにお酒を飲みました。 私は酔うと寝る…

ランゲルハンス島の午後/村上春樹~己の理想郷の岸辺に触れよ~

≪内容≫ まるで心がゆるんで溶けてしまいそうなくらい気持のよい、1961年の春の日の午後、川岸の芝生に寝ころんで空を眺めていた。川の底の柔らかな砂地を撫でるように流れていく水音をききながら、僕はそっと手をのばして、あの神秘的なランゲルハンス島の岸…

女のいない男たち/村上春樹~世界はそっくりそのまま月の裏側なのだ~

≪内容≫ 「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」他全6篇。最高度に結晶化しためくるめく短篇集。 男になったことがないので分かりませんが、芸能人のニュースとか見てると「ああ・・・」って残念になることがあります…

カンガルー日和/村上春樹~何かへの復讐のようにスパゲティを茹でつづける~

≪内容≫ 時間が作り出し、いつか時間が流し去っていく淡い哀しみと虚しさ。都会の片隅のささやかなメルヘンを、知的センチメンタリズムと繊細なまなざしで拾い上げるハルキ・ワールド。ここに収められた18のショート・ストーリーは、佐々木マキの素敵な絵と溶…

パン屋再襲撃/ 村上春樹~風が吹いても吹かなくても、僕らはそれぞれ生きていく~

≪内容≫ 堪えがたいほどの空腹を覚えたある晩、彼女は断言した。「もう一度パン屋を襲うのよ」。それ以外に、学生時代にパン屋を襲撃して以来、僕にかけられた呪いをとく方法はない。かくして妻と僕は中古のカローラで、午前2時半の東京の街へ繰り出した……。…

パン屋を襲う/ 村上春樹~思い通りに行かないのは逃げるから、そしてその後悔は呪いに変わる。~

≪内容≫ 僕は二度、パン屋を襲撃した。一度めは包丁を体に隠して、二度めは散弾銃を車に載せて―。初期作品として名高い「パン屋襲撃」「パン屋再襲撃」が、時を経て甦る。ドイツ気鋭画家のイラストレーションと構成するヴィジュアル・ブック。 村上春樹、パン…

国境の南、太陽の西/村上春樹~幸せから生まれる悪があり、理想から生まれる孤独がある~

≪内容≫ 今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて―。日常に潜…

ノルウェイの森/村上春樹~それはあなたが自分自身の半分でしか生きてないからよ~

≪内容≫ 暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は一九六九年、もうすぐ二十歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた…

ふしぎな図書館/村上春樹~人生には取り返しのつかない選択がある~

≪内容≫ 図書館で「オスマントルコ帝国の税金のあつめ方について知りたいんです」とたずねたぼくに、老人の目がきらりと光った。案内された地下の閲覧室。階段をおりた奥から、羊男が現れて…。はたしてぼくは、図書館から脱出できるのか?村上春樹と佐々木マキ…