《内容》
女子高生の唐坂和葉は17歳。隣のクラスの沢くんへの告白の返事は「まあいいよ」。いつもヘッドフォンをつけていて「ハブられている」クラスメイトの初岡と、沢の会話を聞きながら、いろいろ考える。いじめのこと、恋愛のこと、家族のこと。十代のめまぐるしく変化する日常と感情と思考を、圧倒的な文体で語る新感覚の小説。
THE・17歳って感じの内容です。
大人になると、当時のことってどうしたって色褪せると思うのですよ。思い出はあるけれど、当時抱えていた青臭い怒りって大人になっていくにつれ飼いならされてしまう。
本作の作家さんに限らずだけど、小説の登場人物の心を等身大に描けるということが本当にすごい才能だと思いました。
女子高生という名の戦士
「教室の黒板とかに私の悪口書いていいし、机にマジックで死ねとか書いていいよ。やってみたら?強くなってみたいでしょ」
なんでそんなこと?したくないし、って言うけどでも、強くなりたいってそういうことだ。強くない自分を哀れんで、でもそのままにノーリスクで強くなりたいと思うから、弱いことを理由に傲慢になる。
主人公の唐坂和葉は、沢くんに告白してOKもらうけど、OKの仕方に愛が感じられなくて振る。そんな和葉の行動は同じグループのナツの勘に触ってハブられることになる。クラスですでにハブられている初岡さんはナツたちの会話を聞いていたため、和葉に同情気味だが和葉にとってそんなことでハブるナツも、誰からもいじめられていないし、誰とも会話しないのに被害者ぶってる初岡も、適当な沢もみんなにムカついていたのだった。
和葉が沢に告白したのは、大好きな兄が恋人に浮気されて、それでも好きだからっていう感情が分からないのが嫌で、好きって気持ちになりたくて、そしたら沢くんが陸上部だから走ってたってだけのこと。
自分のために誰かを踏み台にする、それで誰かを傷つけて恨まれてってリスクを背負う。共感できないことにも「分かる―」ってとりあえず自分に嘘ついて精神的自殺を繰り返して誰にも見えない血を流しながら、この狭い世界で生き抜くために戦ってるのに、初岡は大きなヘッドフォンつけて現実逃避してる。卑怯だ。なのに沢くんは初岡さんが可哀想とかいう。そして初岡はナツにハブられたあたしを可哀想な存在にしてくる。
そんで沢くんは振ったのに告白してきて、いじめられはじめたあたしをかばったりして結局あたしの気持ちは流れ流れて結局自分で決めることなんて何にもできないのだ。
私の言葉は三井には届かないだろう。彼らは私の年齢をちょっと哀れんで、そして見くびって、語るしかできないのだ。過ぎ去ってしまったから。私は自分が小学生の頃、中学生の頃、どれほどばかで、どれほどまともだったのか、はっきりとは覚えていない。クレヨンで書きなぐったような過去の光景が浮かんで、あのころはバカだったとか言い捨てる。私はきっと自分の過去をみくびることで今の自分を正しいだとか大人だとか思おうとしている。軽蔑すべき軽蔑で、出来上がっている肉体。
兄は恋人と、恋人の浮気相手の三井を連れて実家に帰って来た。三井は好きな人が自殺したショックで自分も死のうと思っていて、それを止めようとして兄の恋人のビッチが浮気しちゃったのだという。
ちょっと前まで自分と同じく世界を斜めにみて、恋愛なんてしそうになかった兄の変化。それから兄の交友関係、いじめられてるあたし。世界が目まぐるしく変わる中で、あたしはすべてにNOを突きつけながら闘う。
タイトル「十代に共感する奴はみんな嘘つき」は、同じ十代たちは本当は共感なんてなくって自分が戦い抜くことで精いっぱい。対して大人は「そういう年齢だよね」なんて共感ぶるだけで見くびっているだけ、という意味で”嘘つき”なんですね。
この主人公、正論言っているようで、他人を振り回し、なんだかんだ周りに助けられる点が甘ちゃんで私にそっくりだな(恥)と思って読んでました。昔姉に「あんたって何でも自分でやるとか息巻くけど、結局周り巻き込んで周りに助けられてるよね」って言われて初めて気づいたんですが、和葉も私もなんだかんだ暴走してる自分を見守ってくれる人がいるから尖ってられたんですよねぇ…と感慨深く思いました。