《内容》
川沿いを血まみれで歩く女子大生が逮捕された。殺されたのは彼女の父親。「動機はそちらで見つけてください。」容疑者・聖山環菜の挑発的な言葉が世間を騒がせていた。事件を取材する公認心理士・真壁由紀は、夫・我聞の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねる。二転三転する供述に翻弄され、真実がゆがめられる中で、由紀は環菜にどこか過去の自分と似た「何か」を感じ始めていた。そして自分の過去を知る迦葉の存在と、環奈の過去に触れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになるのだが…。
恋愛でよく聞く言葉、母性本能をくすぐるとか父性のある男性だとか。生まれてから初めてもらう愛。そして大人になっても求める愛、それが母性や父性から生まれる愛なら、全人類共通で初恋の相手は両親ということになる。それが両思いであろうが片思いであろうが、恋の結末に限らずに。
人は成長するとは限らない
主人公は公認心理士の真壁由紀(北川景子)。アナウンサー志望の女性が父親を刺殺したとして世間をにぎわせていた。由紀はそんな騒ぎに対して混乱していて自分の気持ちを言えないだけかもしれない、と容疑者に寄り添う。
容疑者・聖山環菜は由紀のインタビューを許可する。そのことを嬉しく思うが担当の弁護士の名前を聞いた由紀の表情は硬くなる。庵野迦葉は夫の弟であり大学時代の恋人であり、由紀にとって苦い人物だったからだ。
男の人ってみんなあ~なんですか?
毎日毎日連絡してきて
私のことかわい~って褒めてきて
体の関係になって
なのにある瞬間から飽きて
電話もメールも回数が減って
そのくせセックスの時だけ否認したくないって駄々こねて
それでも
それでもこっちは我慢して付き合ってるのに
最後は向こうから離れていく
環菜は面会に来た庵野に言う。庵野は「好きでもない相手と我慢して付き合う必要はないんじゃないか」と言う。環菜は言う。「だったら誰があたしを助けてくれるの?心があるふりをして近づいてきて結局体を求めてくる」
環菜が我慢している付き合いは”セックス”であり、求めているのは自分を守ってくれる"父性"である。だが、自身も両親に捨てられた過去から父性に乏しい庵野には環菜の本心は伝わらなかった。
一方で由紀は環菜が小学生の頃デッサン会のモデルとして大学生の男の裸と並べられ、大勢の男子学生に見られる、という過去を知り自身のトラウマとも向き合う。環菜と由紀に共通するもの。それは女児を見る男のギラついた目であり、それは父親の目だった。
でも
ずっと前から父には何かあるって肌で感じてた
私は父の目が怖かった
今でも何度も思い出すの
同じような傷を持った由紀と庵野は傷つけあいながら成長する。さらに幼少期の環菜を一時保護した青年も過去の償いとして法廷に立つ。この青年の心的成長が一番一般的で親近感があると思った。
一方で環菜の母親は自分も傷つけられたのだから娘が傷ついても甘えるな、という態度だった。成長しない人間が本作では母親だ。
そして"父性"は由紀の夫であり庵野の兄である我聞。"母性"は苦しみながらも環菜に寄り添い続ける由紀である。
父が売春していたとしても自分を直接襲ったことはない。自分が大人の男性に絡まれているところを見ていても、父が自分を直接襲ったことはない。だけど感じる恐怖。他人に言っても理解してもらえないだろうし、何なら自分でもこれが何なのかが分からない。言うなれば"父の考えていることが分からない"恐怖。だが、世の中でどれだけの娘が"父が考えていること"を知りたがるだろう?否、そもそもそんなことを考えなければならない状況自体が危険地帯なのだ。子供がいるべき場所じゃない。
人を守ることができる人って多かれ少なかれ"母性"や"父性"があると思う。でもそれは後天的に会得できるものでもある。個人的には窪塚洋介演じる我聞がいわゆる"一般家庭"、いわゆる"愛されて育った人"の一番正しい例で、それは品性だとかそういう"生まれ持った才能"みたいに感じた。才能として備わっているものと努力して手に入れたものの違い、みたいなものを感じて「ああ、私は我聞にあこがれながら絶対に由紀や庵野の立ち位置的人生なんだろうな」って思った。
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だが、人は成長するので、私もいつか我聞のようにどっしりと構えた落ち着きと愛情深さを備えた人間になれるのだろうか、と期待してみたりする。