とある事情から逃亡者となった“ぼく”こと巣篭カナは、逃げ込んだダストシュートの中で全裸の美少女・白雪を発見する。黒く大きな銃を持ち、記憶喪失を自称する白雪と、疑いつつも彼女に惹かれるカナ。2人は街を抜け出し、東京・秋葉原を目指すが…直木賞作家のブレイク前夜に書かれた、清冽でファニーな成長小説。幻の未公開エンディング2本を同時収録。
かつての私も「推定少女」だったろうな。
ここまで過激じゃないけれど、主人公・カナの苦しみはなんだか懐かしい。
子供は大人の付属品じゃない
毎日どこかで、ぼくたちは大人にころされてる。
心とか。可能性とか。夢見る未来とかを。
足蹴にされて踏みつけられて、それでもまた朝になったら学校に行かないといけない。
そういった殺戮は、日本中いたるところで毎晩のように 起こっているんだ。この瞬間だって、泣きそうになって夜空を見上げている中学生は、ぼくだけじゃない。
同じ夜空を見ている誰かが、いるはずなんだ。
窓から侵入した義父に襲われそうになったカナは弓で攻撃してしまう。
理由を話しても大人は分かってくれないだろうと思ったカナは逃げる。
そして、謎の美少女・白雪と共に逃亡する中、テレビに映った母親はカナの言い分も聞かずに「カナを殺してやりたい」とまで言い非難していたのだった。
子供は親の付属品じゃない。
全く別の人間として成り立っている。
それなのに、親というだけで全て分かったような気でいることが多い。
「私の子供がこんなことするなんて思ってなかったわ」
「私達の子供なのにどうしてこんなに勉強できないの」
「私が子供の頃はもっと出来たわ」
こういう人はどこまでいっても自分あっての子供なのだ。
子供は確かに役に立たない。
しかし役に立つものが欲しいならお金で雇えばいいのであって、子供にそれを求めるのはお門違いなのだ。
子供になるべくいい人生を歩んでほしいといって有名大学に行くように、大企業に勤められるように・・・と急き立てる人もいるけど「いい人生」は個々によって違うのだから、それを押し付けるのは操り人形にしてるのと同じこと。
自分達が子供のころ奪われてしまった夢とか、希望とか、そういうキラキラしたものを、今度は自分が奪おうとしている。
理解せずに奪われっぱなしになったものは、意味も考えずに「ダメよ」の一言で奪っていいものと思っている。
悩みのない中学生はいない
なにがって答えられないけど、確かにいろいろ苦しいという気がした。毎日のこと。学校に行ったり、勉強したり。友達との付き合いも、楽しいだけじゃなくてじつはけっこう気を遣う。あと将来のこと。
進学とか、進路とか。
決めていないこと、わからないことは多いのに、時間はどんどん経っていく。来年には十六歳に、再来年には十七歳になってしまう。
いったいどうしたらいいんだろう?
日々はとても辛くて、はやく大人になりたくて、でもぜったいなりたくなくて。
ほとんどの大人のことが嫌いで。
大人の押し付ける理想、悲観的な未来像、何がしたいかもわからなくて、同じように迷っている子もいれば、さっさと前に進んじゃう子もいて、それで大人に殺されちゃう子もたくさんいて。
そんな中でストレスも悩みもない中学生なんていないと思う。
悩みのない大人はいても悩みのない中学生はいない。
だって大人は悩みをお金で解消できる。
逃避で解決出来る。
色んな逃げ道を探せる。
それは自分でお金を稼げるからだ。
義務教育という大きな籠の中の鳥である彼女達には自由はない。
自由になりたければ籠を出るだけ。
そしてその先で流れ弾に当たって死んじゃったとしても誰にも分かってもらえない。
15歳だったあたし
ぼくは笑った。
悲しかった。
いろんなことが。
すごく悲しくて、でもこれは子供の感情なのだと思った。
自分のことでいっぱいいっぱいだ。誰も悲しませたくないけど、どうしたらいいのかわからない。
言葉にしたらただ誰もに"わがままな子供"と言われてしまいそうで、黙りこむしかなくなるんだ。
誰か聞いて・・・。
大人になりたくない理由を聞いて。
怒らないで、ぼくの言い分を聞いてよ。
怒らないで、ぼくの言い分を聞いてよ。
いったいいつから泣いてはいけなくなって
いつから大人の言葉を使えばいいのだろう。
どこに行けば希望があって、その希望は死ぬまで消えないのかな。
ケンカしたいわけでも反抗したいわけでもなくて、この不安がどこから来ていつか消えてくれるものなのか教えてほしいだけ。
大人になると子供の頃のやるせなさって忘れてしまうのかもしれない。
誰だって15歳を乗り越えてるのに、今の15歳の子を分からないなんて本当にあるのかな。
時代が違うなんて強引な幕引きはやめて15歳だったあたしを思い出してみよう。
あの頃、意味もなく不安だった。
どこに向かえばいいのかわからないのに、立ち止まったら皆から置いて行かれてしまう気がしてた。
久しぶりだね、15歳のあたし。