深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】ソロモンの偽証~見て見ぬふりをする大人と罰してほしい子供たち~

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≪内容≫

クリスマスの朝、雪が降り積もった城東第三中学校の校庭で2年A組の生徒・柏木卓也の死体が発見される。警察も学校も飛び降り自殺と判断するが、後日、学校関係者のもとに、柏木の死は自殺ではなく、大出俊次をリーダーとするいじめグループによる殺人だったと訴える匿名の告発状が届く。やがてそれはマスコミにも伝わり、ワイドショーを連日賑わすことに。それでも学校側は穏便に事を収めようと後手を踏むばかりで、事態は悪化の一途を辿っていく。そんな中、事件の第一発見者で2年A組のクラス委員を務める藤野涼子は、大人たちには任せておけないと、自ら真実を暴くべく立ち上がる。そして、全校生徒に対し大出を被告人とする学校内裁判の開廷を提案する藤野だったが…。

 

 これ原作めっちゃ面白そうだなぁ、と思いました。校舎や制服、雰囲気がレトロっぽいので昔の話とは分かってもやはり現在の人たちがやっているのでそこまで時代を感じられなかったんですが、小説だともっと感じられそう。何やら時代がキーポイントのようなのでそこはしっかり感じたいです。

 

我慢と秘密が同居する罪は子供を滅ぼす

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 きっかけは柏木卓也という生徒が謎の死を遂げたことが始まりだった。警察の鑑定は自殺だったがその後、いじめっ子グループによる殺人との告発状がマスコミに伝わり、生徒達の不安は一気に加速する。

 更にその後いじめっ子グループにいじめられていた浅井松子が交通事故で死亡。連続した二人の生徒の死に対して真実を求める声を上げる生徒に対し、とにかく騒動を治めたい教師の力づくの抵抗は更に生徒達の不信感を煽った。

 大人たちに任せておけないと思った生徒達は柏木の死体の第一発見者で2年A組のクラス委員を務める藤野涼子を筆頭に学校内裁判を行うことを決意する。

 

ここからネタバレします!

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 藤野涼子はいじめ撲滅を訴えながらいじめられている三宅樹里と樹里を助けに間に入っていた松子を校舎から眺めているだけでした。 そんなとき発端となった柏木くんは藤野を問い詰めます。

 

それ
あの二人の前で言える?
そういうの口先だけの偽善者って言うんだよ
お前みたいなやつが一番悪質なんだよ 

 

  更には、小学校時代の友人・神原の両親が亡くなった理由を当てつけ「よく生きてられるね」などと辛辣な言葉を突きつける。

 中学生ながら、自分の生まれた家庭や現在の立ち位置におけるキャラクターを必死に演じている二人に対して柏木は「偽善」「嘘」と真っ向からぶったぎって行きます。

 なぜ柏木くんが自殺願望を持つようになったのかは他のキャラクターより描かれていませんでした。(たぶん)だからなぜかは分かりませんが、相当追い詰められていて、誰かと一緒に戦ってほしかったから自ら体当たりしていったのだと思います。

 しかし同級生というのは言いかえればライバルで戦友です。相手が苦しんでいることは分かっても自分だってもがきながら毎日生活しているのですから、寄り添う時間も体力もお金もありません。柏木くんは、神原くんに無理難題を突きつけ彼を試し、それに神原君が根を上げたが最後、自らの命を落としたのです。

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  一方、柏木の死を自らの救済と復讐に利用したのが三宅樹里でした。彼女はいじめっ子グループからニキビを罵られ暴力はもちろん罵倒する言葉で埋め尽くされたハガキなど陰惨ないじめを受けていました。しかし、そのいじめから助けてくれる大人はいなかった。自らで動くしかないと思った彼女は柏木の死をいじめっ子の殺害として告発し、警察に閉じ込めてもらおうとしたのだった。

 しかしその目論見は唯一の味方である浅井松子によって咎められる。しかしその松子も直後、車に轢かれて亡くなってしまう。孤立無援となった彼女に寄り添う母親は無条件に子供を愛しているように見えて、彼女の罪を見て見ぬふりをしているだけだった。

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  大人たちが見ない間、もしくは見て見ぬふりをしているか学校に丸投げしている間に、子供たちの心にはそれぞれの罪が膨れ上がっていた。子供たちは罰してくれない親や教師に変わって同級生にそれを求めた。

 自分の間違いに気付きながら自己修正するのは熟練した何かの技みたいなもので、学生時代はカオスである。私も経験があるが「私はどうしたらいいの?」「私のダメなところを言ってよ!」とか、自分の問題を友人に肩代わりしてもらおうとする子供は珍しくなかった。

 

 なんだか上手くいかない。そういうとき、どう補正したらいいのか道を作ってくれる人が欲しいのに、「あなたらしくない」「あなたはそのままでいいのよ」「皆そうしてるじゃない」でそのまま進みたくないルートを迫られることは多々ある。爆発すれば体罰で諌められ、永遠に足踏みさせられる世界で友情は生まれない。

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  大人になるとほんとうに分かるんだけど、正しい道を知っている人なんていないし、教師だろうが教授だろうがただの人なんですよね。

 営業が上手い人、接客が上手い人、子供をあやすのが上手い人、物知りな人・・・それだけのこと。罪から逃れたくて誰かに石を投げ付けてほしくても、罪のない人間なんていないから石は永遠に降ってこない。もし降ってくるならそれは罪への石ではなく、ただの石である。

 だから藤野の言う

 

自分の罪は

自分で背負っていくしかないんだよ

 

 の通りだなぁ、と思うのです。

 まぁ・・・中学生でこの境地に達したらすんごい大人になりそうだなぁと思ってしまう私は、いや~高校生くらいまでは大人に頼っていいんでない?と思うし、頼ってもらえるような大人でありたいと思う次第ですが。

 「我慢と秘密が同居する罪は、その子供を滅ぼす。」という一句は、私が桜庭さんを大好きになった理由の一つでもあります。なるべく、子供には罪を持たせたくないものです。