≪内容≫
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日談を含む全7編。青春・SF・家族ドラマ…。読了後、世界は動き始める。想像力の可能性を信じる、著者10年間の軌跡。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日談・・・ではなくね?と思うんですが。
桜庭さんのコメントを読むと、砂糖菓子と同じ舞台ってだけじゃないか?と思うんですけど・・・。山田なぎさ出てこないし。貴族のような兄も出てこないし。
とはいえ今回は面白いというより、毒あるなって思いました。
癖が強いというか。
私はこの毒に犯されてもう大好きでしょうがない。
じごくゆきっ
がたごとと音を立てて、遠くを電車が行き過ぎていく。目を閉じると、あの遠い日の夜汽車にからだごと連れていかれそうになる。もう何年もわたしは、休日のこの土手で、昼下がりの台所で、夜空を見上げる寝室の窓辺で、その衝動にじっと耐えている。
一番切なく思ったのが、タイトルにもなった「じごくゆきっ」です。
大人になりたくないばかたれな由美子ちゃんセンセとたまたま学校に居残りしていた私の逃避行。
私は由美子ちゃんセンセに誘われて鳥取の砂丘へちょっとした逃避行をする。
じごくっに向かって。
子供だった私と、大人なのに大人になりたくない由美子ちゃんセンセ。
私はいつしか大人になり、自分の子供も出来た。
だけど、それでも、大人になっても、あの逃避行の夜に戻りたくなるのだ。
例え、自分が誰かのお母さんになっても誰かの奥さんになっても。
ビザール
ぞくぞくする。
ゴシックホラーと言ったらまた違うかな?
この「ビザール」と「ゴッドレス」は逃げる話です。
まさかそれがいまごろ蘇ってくるなんて。それも、好きになった男の人の頭の中に。
もしも脳に使える特注の消しゴムがあるなら、入っていって全部消してしまいたいと思った。それはおどろくほど激しい感情だった。わたしにしては。
だって。
わたしは、生きていたいから。未来に、歩いていきたいんだから。
雰囲気はこれに似ている感じ。
ダークな雰囲気も、主人公の弱さも。
相手の望む自分になれば楽でふらふらふらふらしちゃう私。
量産型女子としての私を好きな三つ上の男の子。
私をへんな子だと思っているお父さんみたいな会社の人。
好きで選べない私。
じゃあ選ぶなら?
生きるため。未来のためになる方を選ぶ。
ドロボウは何を盗んでいるんだろう?
それはきっと自分の欲しいものじゃない。
生きるために必要なものだったり、誰かのために取り返したいものだったりで、自分の欲しいものなんかじゃないと思う。
だから私は私の欲しいものが分からない。
私は私が分からない。
脂肪遊戯
「この脂肪こそわたしの神。肉体こそがわたしの信じるべきもの。脂肪。脂肪。脂肪。脂肪。」
小学三年生までは色白でほっそりした美少女だったが、中学生になるころには身長150センチ、体重70キロの醜い巨漢になり果てた。
そんな田中紗沙羅の話。
女子にとって禁忌であるといっても過言ではないのが太るということ。
女子という生き物は万年ダイエットに勤しんでいる。
流行りのダイエットに踊らされても凝りずに何度も挑戦する。
それくらい女子にとって体重や見た目は大事なものさしなのだ。
紗沙羅は美少女から巨漢に転身した。
さて、この理由は何だったのか。
単純に太るってストレスだとか、食べすぎだとか、自己管理出来てないとかマイナスなイメージしか思い浮かばないのだけれど、紗沙羅の理由が悲しすぎて、ああもう桜庭一樹、ほんとはぁ・・・・もう・・・・と思った。
桜庭さんの描く女の子はみんな砂糖菓子の弾丸を持っている。
弱くて、実弾を持てなくて、甘ったるくてべたつくだけの砂糖菓子の弾丸でしか戦うことが出来ない。
それは年齢的な問題で持てないときと、20歳を超えても精神的な年齢の低さで持てないときがある。
むしろ実弾を持ったキャラクターっていたっけ?とか思ってきた。
・・・いない。いないと思う。
大人になったし、私はたぶん実弾を持てる女な気がする。
だけどそれでも砂糖菓子の弾丸しか持てない私も私なのだと思う。
大人になっても、そういう自分を切り離したくないんだけど、日々の生活で自分で自分を忘れちゃう。
風化して失っちゃう前に桜庭さんの作品を読んで思い出して、今の私と過去の私を確認し合うっていう。
桜庭さんの作品は私にとってちょっとセラピー。