≪内容≫
戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理―非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。
映画館で観たこの作品が忘れられなくて。
この映画はなぜか予告を観て、猛烈に観たくなって友達を誘って観に行ったんですが「シシリアン・ゴーストストーリー」といい、全国規模じゃない映画ってすごく残る。
大人は皆生き残り
これらの言葉を、ぼくらは忘れなくてはならない。なぜなら、今では誰一人、同じたぐいの言葉をかけてはくれないし、それに、これらの言葉の思い出は切なすぎて、この先、とうてい胸に秘めてはいけないからだ。
母方の祖母の家に疎開した双子は、ほとんど面識のない祖母にうとまれていた。その祖母は世間から嫌われていたので、二人は家では祖母に叩かれたり罵られ、外では「魔女の子」などといじめられてしまう。
二人は暴力に涙しないため、悪口に傷つかないために、お互いがお互いを殴り、罵しり、もう痛みも涙も感じないほど慣れるまで訓練を重ねる。
二人の訓練は世の中の不条理に対するものだけではない。
愛の言葉は二人を無条件に泣かせる。二人はその言葉も忘れるために、訓練に取り込んだ。
タイトル「悪童日記」とあるように、双子は悪行を重ねます。
盗み、脅し、殺傷、攻撃、なんでもします。その日々が日記形式として書かれているのですが、これがさっぱりしていて読みやすいんです。
戦時中の食べ物の盗み、農作物の盗みは、「火垂るの墓」で清太がスイカを盗んでボコボコにされるシーンが真っ先に浮かんだのですが
こっちの少年はかなりしたたかです。したたかになるために、二人で訓練し続けたのだと思います。そうしないと生きていけないから。
子どもは皆サバイバーで、大人は子供の生き残り。その視点をくれたのは砂糖菓子に出てくる海野藻屑。彼女は砂糖菓子の弾丸で生き抜こうとして死んじゃった。
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/02/25
- メディア: 文庫
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双子はそんな甘いベタベタしたロリポップではなくて、実弾を確実に手に入れていく。
本作はサラーっと書かれてますが、戦争がどれだけ人の心を荒ませるか、そんな荒んだ大人たちが牛耳る世界で子どもが生きるために愛を捨てなければいけないってことがじわじわと胸に染み込んできます。
- 作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
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小説は分かりやすいし、映画は美しい本当の双子の少年のおかげか、そこまで暗くなく見れます。
負けたくない。痛みや寒さ、空腹にも。