カムチャッカ沖で蟹を獲り、そのまま船上で缶詰に加工する蟹工船・博光丸。そこでは、出稼ぎ労働者たちが劣悪な環境の中、安い賃金で酷使されていた。そんな中、一人の男が立ち上がる。出演は松田龍平、西島秀俊ほか。
映画はお笑い芸人の方が何人かいるからか笑いがありますが、この物語が作られた背景を考えると全く笑えないんですよね。彼らが命がけだったように、この事実を本にするのも命がけだった。作者の小林多喜二さんは特高に虐殺されているんですよね。。。小林さんはこのようなプロレタリア文学を書くことで虐殺されることを分かっていながらも書き続けた。自分で自分のお墓も立てていたところからも覚悟の強さが見えます。
決して逃げなかったその姿は、諦めきったみんなを奮い立たせた代表者(松田龍平)に重なって見えました。
残酷な神が支配する
蟹工船は実話をもとにして描かれた作品です。出稼ぎにきた労働者たちは帰っても家族の迷惑になるだけ、働き口があるだけマシなんだ・・・と劣悪な環境の中でも必死に働きます。理不尽で執拗な暴力にもされるがまま。
監督である浅川は冷酷な人間で、近くの船からSOSを受けても見捨てます。船長と無電係はSOSがだんだん途切れ途切れになり、沈没するのをただ聞いているだけです。
彼らは現実ではどうしようもないと判断し来世にかけ、集団自殺しようと試みます。
次は金持ちの家に生まれるんだ。
金持ちの家を想像するんだ。
今どう頑張ったって無駄なんだ、船から出て家に帰ったって迷惑なだけなんだ、と。
まさに死ぬことが希望になっている状況でした。
彼らが粗末な食事と汚い風貌でひたすらに働く中で、浅川や役員たちは豪華な食事を嗜むのだった。この状況しか知らない彼らは不満はあれど、仕方ないと諦めていた。しかし逃亡した2名が敵であるロシア戦に助けられたとき、彼らは全く別の世界を知るのだった。
乗り込んだロシア船は何もかもが日本とは違っていた。監督が仲間たちと同じ場所で同じものを食べ、肩を並べて踊ったり笑ったりしている。船員たちはとても楽しそうにコサックダンスを踊り、綺麗な女性と一緒にダンスをしていえる。彼らの頭には暖かそうな帽子が乗っており、二人にも毛布が与えられた。
その風景に興味をもった二人だが全く言葉が分からずに困っているところに通訳をするといって中国人が現れた。この中国人が諦めしかなかった二人に火をつけます。
今度ナイネ
今ネ
大事ネ
ワタシキイタ
アナタガタノ船タイヘンネ~
デモアナタガタガワルイネ
自分ノコトハ自分デキメル
コレ大事ネ
アナタ ワカッテル
デモミンナ ワカッテナイ
ヒトリヒトリタタナイトダメネ~
文句イッテ何モシナイ人ダメヨ~
ワカラナイ~
コワイ~
ヤラナイ~
コレ何モ変ワラナイネ
労働者がいなければ蟹は取れない。大量のカニ缶も作れない。そのことをロシア船の全員は分かっていた。だからこそ船員は大事にされていた。
自分達は自分達の劣悪な環境に自分達で納得していたんじゃないのか。戦わない内から諦めて文句ばかりいって不満をためて、それでいいのか。変わる為に立ち上がらなければいけないのではないか。
二人は船に残っている漁夫たちと共に現状を変えるべく船に戻ってきます。一方、二人がロシア船にいるとき、日本船では一人の漁夫が逃亡の罪で拷問の後、監禁された場所で首を吊っていたのでした。
逃亡の罪で捕まった宮口が自殺していたことを知った漁夫たちは更なる絶望を負い、すっかり環境に慣らされてしまいました。
"自分達はまだ働き口があるからマシなんだ・・・。もう問題を起こさないでくれよ、働く場所がなくなっちまう・・・。"と。
仲間が殺されても怒りや憎しみを持たずにひたすら保守に走る大人たちに若者は物申します。
今を一生懸命生きろだと?
綺麗事ばっか言いやがって!
結局神様に頼ってんじゃねーかよ
少しは自分で考えろよバカ野郎!
あんた達は何やってんだよ!
大人なんだろ?
何ビビってんだよ!
言いたいことがあるんだったらちゃんと言えよ!
貧乏だからって被害者ぶってんじゃねーよ!何もしないくせに文句ばっか言ってんじゃねーっつってんだよ!
文句なら浅川に言えよ
なんで俺には言えて浅川には言えないんだ
え!?
なんでだ!言ってみろ!
根性なしはあんた達じゃないか。
生まれてきた環境のせいにして、人のせいにばかりして
あんたたちみたいな大人がいるから
俺たちはいつまでも貧乏なままなんだぞ!
立ち向かう勇気もないくせに!
偉そうなこと言うな!
宮口さんは殺されたんだぞ!
それでも我慢しろって言うのか
このまま耐え続けろって言うのか
あるかどうか分からないあの世を信じて
いつか神様が救ってくれると信じて
このまま耐え続けろって言うのか
あの世で極楽に行って何になるっていうんだよ
大切なのは今なんじゃないのか
今を大切に生きるってそういうことなのか
このあと、ロシア船から二人が戻ってきてストライキが起きます。
人はほんとうにほんとうに悲しいくらい不平等。
だから羨んだり、憎んだり、環境のせいにしたり、諦めたりするのって自己防衛だと思います。あの鬼の浅川にいくら全員総出でも刃向かうのは相当怖いことだと思います。
彼らが立ち向かおうとした勇気だって並大抵のものではないと思います。恐怖から立ち上がるのはとても怖い。固定観念を捨てるのだって簡単じゃない。
日本は治安がいいとか人が親切とかいう意見をネットで見たりするけど、それが本当ならなぜこんなにいじめがあるの。なぜ自殺者が絶えないの。自殺防止のためにホームドア作って、電通問題で残業時間60時間にしてって意味あるのかな。
後手後手で対処してくのってイタチごっこと一緒じゃないの?そもそもなんで8時間とか働かなくちゃいけないんだろうか。なぜ週に5日も働かないといけないのか。残業60時間って一日11時間とか働くの?休憩引けば10時間?
それを国が認めるの?
それで日本は良くなるの?
日本は何を目指しているんだろう。
子どもの貧困の基準高すぎないか。習い事に通えないってだけで普通から外れちゃうの?
少子高齢化なのになぜ保育園に落ちるの。
なんか色々おかしくないか。これが「普通」なのか。
他国と比べて平和とかじゃなくて、一人一人が平和に生きていることが平和なんじゃないのかな。
「今を生きる」ってどういうことなんだろう。
明日死んじゃうかもしれないのに安心のために貯金して、そのために人生の限られた時間のほとんどを仕事に費やしてる。
原作は青空文庫で無料で読めます。
ぜひ読んでみてください。
漫画でもあります↓
- 作者: 小林多喜二,バラエティアートワークス
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2007/10/01
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誰にも死んでほしくないよ。