深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

バースデイ/ 鈴木 光司~リングシリーズのあの時こうなってました話~

スポンサーリンク

≪内容≫

リングの事件発生からさかのぼること三十年あまり。小劇団・飛翔の新人女優として不思議な美しさを放つひとりの女がいた。山村貞子―。貞子を溺愛する劇団員の遠山は、彼女のこころを掴んだかにみえたが、そこには大きな落とし穴があった…リング事件ファイル0ともいうべき「レモンハート」、シリーズ中最も清楚な女性・高野舞の秘密を描いた「空に浮かぶ棺」、『ループ』以降の礼子の意外な姿を追う「ハッピー・バースデイ」。“誕生”をモチーフに三部作以上の恐怖と感動を凝縮した、シリーズを結ぶ完結編。

 

 「リング」から山村貞子→「レモンハート」

「らせん」から高野舞→「空に浮かぶ棺」

「ループ」から杉浦礼子→「ハッピー・バースデイ」

 

本篇の主人公はすべて男性でしたが、今回はそのヒロインにあたる女性の物語。

読む順番としては、「リング」→「らせん」→「ループ」→「バースデイ」がスムーズかと思います。

タイトル「バースデイ」。誕生は三篇すべてに発生しています。しかしハッピーなのは一つだけ。

 

リングシリーズ順番

1.リング

2.らせん

3.ループ

4.ここ!

5.エス

6.タイド

 

「らせん」→「空に浮かぶ棺」

f:id:xxxaki:20180522230843j:plain

「らせん」で突然変異したリングウイルスに感染した高野舞の感染~死までの時間が描かれています。

マンションの排気溝の中で発見された舞。

だんだんと意識を保つ時間が短くなり、誰かに乗っ取られているような感覚が生まれてくる。お腹の中で育つ貞子と会話するまでになった舞。

彼女の脳裏によぎる、性交の有無と自らの運命。

生まれ落ちた赤子は歯のない赤い歯茎で臍の緒を喰い千切り、一筋の紐を意気揚揚と昇って行く。

 

貞子の生まれる瞬間が描かれています。

リングウイルスの怖さ、これはホラーですが、ペストにしろ天然痘にしろ理不尽に振りかかる恐怖は計りしれません・・・。

 

「リング」→「レモンハート」

f:id:xxxaki:20180522232153j:plain

山村貞子の劇団時代のお話。

貞子はすでにこの世にいないので、当時恋人であった遠山の回想と、「リング」で浅川に協力していた吉野の情報で物語は進んで行きます。

 

とりあえず劇団時代の貞子は生きています

何を当たり前な、という感じなんですが、私の中でいつから生きていているのか謎だったので、とりあえず本作を読んで生きてた感は感じました。

 

貞子は同じ劇団員の遠山と恋仲になりますが、彼女にはこの時点で情報機器を使って何らかのまじないをかけようとしていたと思われます。

呪いではなく、洗脳のような印象がありました。

なるべく大人数に一気にかける。その為に必要な力はすでに彼女は持っていて、あと必要なのはそれを可能にする媒体です。

 

なぜ彼女が劇団に入ったのか。

それは芸能人が強い影響力を持つように、彼女もその影響力を使ってやりたいことがあったからです。

「リング」中に起きた疑問。「なぜ彼女は自分を強姦した長尾は殺さなかったのか」劇団員時代に自分を辱めた男は呪い殺しているので、彼女にはそれだけの力があった。しかし、長尾は生きている。なぜか?

私が考えるにそれは彼女が一番求めていた大衆に対する強い影響力という名の天然痘ウイルスを性行為によって受け取ったからではないでしょうか。

 

性行為を通じて彼女の体内に侵入した天然痘ウイルスと彼女は一致団結する。後はそれを拡散する媒体を待つだけ・・・。

 

 

この話も貞子視点ではないので、彼女の深層心理は自ら想像するしかありません。

タイトル「レモンハート」は初恋の意なんじゃないかなぁと思います。遠山の初恋でもあり、貞子の初恋でもあったのではないでしょうか・・・。

  

 

「ループ」から→「ハッピー・バースデイ」

f:id:xxxaki:20180522234130j:plain

こちらは「ループ」の後日談。

仮想世界に戻った馨(竜司)のその後。貞子で溢れたループ世界の続き。

そして現実世界では一人お腹に子供を抱えて孤独と戦う礼子。孫を待つ竜司の父。

 

ああ、なるほどね。こういう終息の仕方があったか・・・と思ったループ世界。

「ループ」の最後で竜司はこれから誰とも分かり合えない、といったようなことを言ってました。私は別に過去を語らなくても、これから一緒に生きる人が見つかるのでは?と思っていたのですが、その言葉は違う意味を持って、本書で描かれていました。

 

馨がいなくなった現実世界では転移性ヒトガンウイルスは治療可能な病気に変わり、馨の父親も回復して言ってます。礼子を受け入れ、彼女の妊娠を喜び待ち望むやさしいじいじになっています。

 

本当に外伝という感じなので、本作だけ読んでもあらすじは追えると思うのですが「?」となりそうな内容でした。個人的には徹底して貞子視点がないのが魅力的だなぁと思いました。

 

実際は死者に限らず、人の本音って分からないですもんね。