≪内容≫
妖しい森で道に迷った騎士フルトブラントは、湖の岸辺に立つ一軒の漁師小屋にたどり着く。そこで出会ったのは、可憐にして妖艶、無邪気で気まぐれな美少女ウンディーネだった。恋に落ちた二人は結婚式をあげるが…。水の精と人間の哀しい恋を描いたドイツ・ロマン派の傑作。
別に相手がいても、他に好きな人が出来ちゃうことってどうしようもないと思うんです。だけど別れることができるのはお互いが自立した大人だった場合であって、例えば親と子供なら、子供が他の家族に憧れようが、大人が他の家の子に焦がれようが別れることはできません。別れるにしたって、「ほなサイナラ」とはいきませんよね。
なにが「水の精と人間の哀しい恋」やねん!!
騎士フルトブラントのばか!ばか!!ばか!!!!
魂(こころ)を持たぬ水の精霊ウンディーネ
あなたがた人間が、いつか天に召されていっそう浄められた生に目覚めるのに対し、わたしたちは、死んでしまえば砂や火花や風や波のまま、と言えましょう。だからわたしたちには魂(こころ)というものがありません。
人間である騎士フルトブラントと水の精ウンディーネは人間と精霊という種の違いを越えて愛しあいます。しかし、ウンディーネは人間が当たり前にもっているこころを知らない。知らないから、両親の言葉も神父の言葉も流してしまう。
こころがないという状態は、葛藤や苦しみという感覚がなく陽気で無鉄砲なウンディーネはしばしば人間達に注意をされる。
「魂(こころ)って、愛らしいもの、でもなにかとても怖ろしいものにちがいないわ。神様にかけて、信仰篤い神父様、魂なんかに関わりにならないほうがましだってことはありませんか?」
ウンディーネは人間の言う「魂」というものに恐怖を感じていました。それはとても大切なものなのだろう、と分かっていても大切だということより、その存在の重大さに怖れ慄いてしまうのだった。
結婚して魂を得たウンディーネ
愛した男と結婚することで、精霊は魂を得る。もちろん魂は今までになかった葛藤や悩みを生み出し、ウンディーネを苦しませることとなる。それでも、ウンディーネはフルトブラントを愛していたし、人間と同じ魂を持ちたいと思っていたのでした。いつかの神父様の言葉やじいじとばあばの言葉は魂があればこそ理解出来たのです。
ウンディーネにとって魂とは善きものでした。
苦しみも悩みも善に向かうからこそ生まれるものなのだと思っていました。しかし、いざ魂を持ってしまうと、人間たちの魂の汚さにウンディーネは身動きが取れなくなっていきます。あまりに純粋な魂が人にとっては毒になるように、ウンディーネの純白な魂はフルトブラントに好意を寄せるベルタルダにとっては非常に厄介なものでした。
そしてフルトブラントもまたウンディーネと結婚してから、やっとウンディーネが水の精であり人間ではないのだということを自覚し出したのです。もちろんウンディーネは婚約の前にフルトブラントに自分の出生を明かしています。しかしフルトブラントはいつしかウンディーネを異様な生き物と認識し出し、その愛情は人間であるベルタルダへと向かうのでした。
愛の苦しみと愛の喜びがお互いにとてもよく似ていて、この二つが心のなかでは姉妹であるからこそ、いかなる力もそれを切り離すことができないことがあの男にはわかりません。涙から笑みが生まれ、微笑みが秘密の小部屋とも言うべき瞳から涙を生み出すものなのに。
あの男とはウンディーネの叔父キューレボルンのことです。
彼は魂を持たないため、ウンディーネをめとったにも関わらずベルタルダを選んだフルトブラントとベルタルダの前にあらゆる姿で出現し二人を脅かしていました。
フルトブラントがウンディーネを気味悪く感じだしたのも、叔父キューレボルンの存在があったのでした。
不変な自然と変化する人間
ウンディーネはどんなことがあってもフルトブラントを愛していた。魂を持ってもそれはかわらなかった。
しかしフルトブラントの魂は人間ではない自然の化身であるウンディーネと同じ人間であるベルタルダの間で揺れ動き、結果的にベルタルダを選んでしまう。
ベルタルダは実はウンディーネを育てた漁師夫婦の子供であったが、貴族の子供として育てられたため、出生を明かされた際には実の両親をひどく罵り、ウンディーネの夫であると知りながらフルトブラントを見つめてしまうのであった。
この物語はウンディーネが精霊界の掟に従いフルトブラントの命を奪うことで終結する。
「あの方を涙で殺めてしまいました!」
さて、ウンディーネはフルトブラントと結婚さえしていなければ、愛する人に裏切られるという悲しみ、ベルタルダとの関係との悩み、そして愛する人の命を奪うという最も嫌なことをしなくて済みました。
人を殺して後悔したり悲しんだりするのも魂がなければ無かった感情であり、残酷な運命です。
フルトブラントも、最初は本当にウンディーネを好きだったのでしょう。ですが、結婚を甘く見過ぎた・・・というか、自分がウンディーネと結婚しても自分は不変ですが、ウンディーネは見た目は変わらなくても、魂というとんでもなく重たいものを背負う事になったのです。
「魂って重いものにちがいありません」
誰も答える者がいなかったので、彼女は続けます。
「とても重い!それが近づいてくるのを思うだけで、不安と哀しみで暗い気持ちになります。ああ、あたし、いままではのびのびと軽やかだったし、いつも陽気だったのに!」
いや、お前が勝手に背負ったんじゃん。という考えもありますけどね。だって、ウンディーネだって自分でそう言ってるもん。でもさ!なんかあまりにウンディーネが一途で健気だったから、どうしても擁護してしまいます・・・。
人間は階級があったり脅えや甘えや利己心に振り回されて優柔不断なのに対して、自然の化身であるウンディーネの魂は全く揺らがない。そういう不変さにもフルトブラントは恐れを抱いたのかもしれない。
でもさ、魂をくれた人を魂を持った自分が殺めなきゃいけない状態にしたのも、魂をくれた人だなんて残酷すぎると思う。
解せぬ。