≪内容≫
最悪なことリストの第一位って何だか知ってる?「気にかけてくれる人が誰もいない」ことだ。里親から里親へと転々としてきたデイヴィッドにはよくわかる。新しい里親に引き取られ、新しい学校に来てみれば、11歳だというのに下の学年に入れられて、級友にはうまくしゃべれないことをからかわれていじめられ、もううんざりだ。ある日、学校帰りにデイヴィッドは、茂みの中でフクロウの卵を発見した。ひょんなことから彼は、飛び級してきたために小さいが賢い少女マブと共に、その卵を孵化させることになる。卵を大事に思う気持ちで結ばれた二人は次第に仲良くなっていく。やがてフクロウが生まれ、デイヴィッドは大好きな本にちなんで、キング・アーサーと名付けてかわいがる。だがやがて、ほんとうに最悪なことが…!情緒障害児との心の交流を描き、世界中を涙と感動の渦に巻き込んだ著者が、生命や友情、本当に大切なものをテーマに据えて贈る大人と子どものための心温まる物語。
本作はトリイの創作で、実話を元に書かれたものではありません。
だけどトリイの経験がこの本に詰まっていて、タイトルからは想像できないくらい暖かい物語でした。子供はもちろん、大人にも読んで欲しい児童書のような感じです。
私たちは運命を引き受けることしかできない
里親の元を転々とするデイヴィッドは両親の記憶がほとんどない。姉が一人いるけれど別々に引き取られてデイヴィッドはひとりぼっちだった。友達の作り方も分からないし、今回の里親となったおばあちゃんともどんな話をしたらいいのか分からない。
デイヴィッドは「最悪なことリスト」というものを作っていた。
最悪なことリスト
歯医者に行くこと、虫歯がふたつ見つかること、なにもないこと、自分の身に起こっていることを気にかけてくれる人がいないこと、自分に帰って行く場所も人もいないこと・・・。
デイヴィッドは新しく通う事になった学校で一人の女の子と仲良くなる。きっかけはデイヴィッドが手にしていたフクロウの卵だった。女の子はマブと言った。牧場経営をしているマブの家にある鵜化器を使って二人は懸命にフクロウの世話をしていくのだが・・・。
デイヴィッドにとって最悪なこと1位は「なにもないこと」だった。しかしフクロウが孵化し、キング・アーサーと名付けて大切に可愛がった後には、最悪なことのランキングは変わっていた。
デイヴィッドの良さは学校というシステムの中では輝かなかった。デイヴィッドは知恵遅れと呼ばれていたし、どもりがすごいし、勇気もなかった。
しかし、キング・アーサーを育てることに関してはデイヴィッドの右に出るものはいなかった。そのことはデイヴィッド自身に幸福をもたらしたし、そんなデイヴィッドの姿勢を見ていた大人たちの見方も変えた。
キング・アーサーはただのフクロウではなかったのだ。
頑張れば報われる。
デイヴィッドはそのことを強く信じるようになっていた。
しかし、キング・アーサーはほどなく死んでしまった。
大人にはフクロウが人間の手で成長するのは一握りだと分かっていたので、デイヴィッドにキング・アーサーを保護施設に預けるように説得したが、デイヴィッドは「頑張れば報われるんだ」という気持ちを信じていた。
だからこそ、キング・アーサーが死んだとき、デイヴィッドはもう立ち上がれない状態にまで落ち込んでしまったのだ。
もし、けんかをしていて倒されたとしても、自動的に相手が勝ったことにはならないだろ?あんたが立ちあがりつづけたら、相手はあんたを打ち負かしたことにはならない。あんたがその場に倒れたままでいたら、そのとき初めて勝負が決まるんだよ。だから、何か悪いことに打ちのめされたときに、まずしなきゃいけないことは立ちあがることなんだよ。立ちあがったからといってあんたが傷ついていないということじゃない。傷ついていないふりする必要もないんだよ。でも立ちあがれば、負けてはいないんだ。
※太字は私が勝手につけました。
おばあちゃんは落ち込んで荒れるデイヴィッドにこう伝える。
いいことのほうを数えなさい。と。
キング・アーサーに出会って変わったこと、
キング・アーサーがいてくれたから起きた出来事、
生まれた気持ち、涙、勉強、
キング・アーサーのかっこよさやおかしさ、
そういったことを数えるんだ、と。
いいことを数えていけば、キング・アーサーを大切なものにすることを選んだことになるんだよ。キング・アーサーを知って、あんたは前よりよくなったんだって、そう世界に知らせることを選んでいることになるんだよ。そうじゃないと、あの子はただの死んだフクロウだよ。
人生はほんと運だと思うんです。ただの運。生まれも育ちも運。自分で選んだものじゃない。なのに放棄することもできない。だから、いいことを数える。
種村有菜先生の「紳士同盟クロス」で、灰音ちゃんが長所と短所を言うときに、「どちらかを言うならいい方で」ってニュアンスの回答するシーンがあるんですが、
思えば灰音ちゃんも養子なんですよね。多くの人は、こんなことを考えなくても生きていけるのかもしれない。それか無意識に選んだり、考え続けてこういう考えに辿り着いたのかもしれない。
私にとって、「その方がいいんだろうけど、でもなんで?って聞かれたら答えられない・・・」という不安定な部分を納得させてくれた貴重な一冊となりました。人からの助言や経験談や創作に本当に助けられてる人生だと痛感しました。