深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

檻のなかの子-憎悪にとらわれた少年の物語-/トリイ・ヘイデン~ほとんどの人が何で死ぬか知ってる?~

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≪内容≫

 8年間、だれとも口をきかず、日中ずっと児童養護施設の机の下でおびえている15歳の恐怖症の少年ケヴィン。ひとたび恐怖心が爆発すると、猛獣のように暴れまわり、周囲や自分を傷つける。180センチほどもあるこの少年を、セラピストのトリイは心底、恐ろしいと感じることがあった。ふたりで机の下にもぐっての長い努力のすえ、ついにケヴィンは言葉を発し、あらゆる症状が快方に向かった。が、ある日、ケヴィンが描いた一枚の絵を見てトリイは仰天した。それはあまりに精密で写真のようにリアルだった―男が腹を裂かれ、路上に腸をぶちまけられ、死肉をカラスがついばんでいる…彼が心の奥に封じ込めていた激しい憎悪が解き放たれたのだ。そして、彼自身と妹たちが義父から受けてきた、おぞましい虐待の事実がひとつずつ明らかになっていく。一時はすっかり治ったように見え、トリイの手をはなれたケヴィンだったが、その後、傷害事件を起こし、精神病院や感化院へと送られてしまう。怒りと憎しみの虜となった少年に、救いの道はないのか。

 

 トリイが出会うのはまだ小学生くらいの年齢の子どもたちばかりでしたが、本作は15歳で180cmも身長がある男の子です。

 子どもも大人も憎しみや怒りは持つけれど、大人がとりわけ怖いのは、その憎しみや恐怖を使うための肉体が整ってくるからだと思います。

 ケヴィンはすでにそれを具現化できるところまで成長していた。

 

 

ほとんどの人が何で死ぬか知ってる?

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心が腐って死ぬんだよ。一種の目に見えない癌だね。心に癌ができるんだ。できてるって感じることができるんだよ。それが内側からその人間を食いつくしてしまうんだ。自分がしたことといえば、この世に生み出されてきたことだけってときに、そうなるんだ。心なんて何の役にも立たなかった。そんなときに心が腐ってくるんだ。腐り果てるんだ。

 ただ生きてるだけで殴られたり、蹴られたりすることの辛さを話してくれたのはケヴィンだけでなく、トリイが出会ってきた他の子どもたちも教えてくれました。

 

 ケヴィンは15歳ということもあって、今までの子どもたちよりずっと多くのことを知っている。とりわけトリイがあくまでお金をもらった職業として自分と関わっていることに対してケヴィンはこだわる。

 

 愛して欲しいけど、条件付きな愛じゃなく、親のように無償の愛が欲しい。

それをトリイに求めてしまうケヴィンと、その思いに答えられないことに苦しむトリイ。結局のところ、お金が絡む職業というフィルターを通さないとケヴィンの存在に気付けなかったのに、今はそのお金が二人を苦しめるというジレンマ・・・。

 

キャロルの脳みそがぼくのところまで床を飛んで来たのが見えたよ。手を伸ばせばさわれるくらいに。キャロルの脳みそがすぐそこにあったんだよ

 

 ケヴィンは生きている。二人の妹も生きている。

トリイが聞いていたケヴィンの家庭環境は母親と義理の父親と二人の妹だけだった。その中にキャロルという名前はなく、ケヴィンの妄想かとも思われた。

 しかし、キャロルは生きていたのだ。

 七歳二か月で義父に殴り殺されてこの世を去っていたのだ。その惨事にケヴィンもいたのだ。

「あいつをこういう目にあわせてやるんだ」と彼はいった。「あいつのばかな体が裂けて、うじ虫があいつの腹わたを食っていくのが見たいよ」 

  義父に対しての憎しみを画にかき、トリイにだけ口に出して伝えるケヴィン。

しかし、本当に憎んでいたのは、本当に殺したいほどの憎悪の対象だったのは、キャロルが目の前で殺されるのを見ながら放っておいた母親だったのだ・・・。

 

 トリイ以外の誰もが諦めた少年でした。

 この世界にはどうしてもうまくやっていけない子がいて、一生を病院の中で過ごして終わるような子がいるのだと、それがケヴィンなのだ、諦めろと言われても、ケヴィンがトリイを傷つけたり無視したりしても、ケヴィンのことを諦めずに面会を続けたトリイ。

 

 子どもと触れあうって現代でブームになってるコスパの真逆をいくものだよなぁ・・・と思う。大人になって、子供の時にしてもらったことで覚えてるのって、プレゼントとか旅行じゃなくて、病気の時に親が仕事を休んで面倒を見てくれたり、学校の送り迎えしてくれたり、お弁当作ってくれたりっていう、親が自分の時間を削ってやってくれたことなんだよなぁと思う。

檻のなかの子―憎悪にとらわれた少年の物語

檻のなかの子―憎悪にとらわれた少年の物語

 

 ケヴィンが最後にトリイに言った言葉は、親子が言葉にせずとも無意識に感じ取っている心理のような気がしました。

 答えはいらない。信じるだけで、生きていけるというのが"絆"ってことなんだと改めて思いました。