≪内容≫
大学院で哲学を学ぶ平凡な学生、珠。同棲しているゲームデザイナーの恋人、卓也との日々は、穏やかなものだった。ところがそんな毎日は、担当教授から修士論文の題材に“哲学的尾行"の実践を持ちかけられたことで一変する。それは、無作為に選んだ対象を追ういわば“理由なき尾行"。半信半疑ではじめた、隣人、石坂への尾行だったが、彼の秘密が明らかになるにつれ、珠は異常なほどの胸の高鳴りを感じ、やがてその禁断の行為にのめりこんでいく―
なんとなく生きてきてなんとなく大学に通ってる主人公の珠は、自分が"在る"ということが掴めずにグルグルと考え続けていた・・・。
100人の人にその人たちの体験とか気持ちを聞いて集めれば分かる気がしたのだが、結局答えは見つからず、教授の助言通りたった一人を尾行してみるのだった・・・!
この映画、地味にネタバレがあるとつまらないかもしれないので、見てない人は見てからの方がいいかもしれません。
何が人を生かすか
論文のために、マンションの向かいの男にロックイン!した珠は、大胆不敵な尾行を始める。
一見、何不自由のない家族。大きな家に、美人な奥さん、かわいい娘、男は編集マンで売る本売る本売れまくるやり手のエリートだ。
しかし、尾行してみるとそんな表向きには何のやましさもない完璧な家族にも秘密があったのだ。
結局、珠の尾行は失敗してしまうが、教授は彼女に対象を変えて尾行を続けろと言う。
こっぴどく叱られた珠が選んだ次の対象者は教授だった。
さて、この映画、私の中ではめちゃくちゃ後味悪いなぁと思うのですが、それがこの教授の存在です。
まず、冒頭は教授の自殺のシーンから始まります。そこから主人公である珠にライトが当たり、彼女の尾行が始まり、彼女の修士論文に点数をつけて教授が死にます。
彼女が見つけた答えに高得点をつけた教授。しかし、その答えが教授の自死を引き止めることにはならなかった。
彼女の修士論文の題は「現代日本における実存とは何か」。初め、珠のどうして自分が存在するのか分からないという悩みに対し、その答えを見つけるのが哲学者であると返した教授。
その答えを見つけるための助言がたった一人の対象への尾行であり、その答えである論文を高く評価しながら教授は死んだ。
人は苦しみからも逃れられない
ほんの少しその苦しみを軽くしてくれるもの、きっとそれが秘密である。
珠が出した答えは、これである。
これほど珠の論文を確実にすることってあるのでしょうか。
人は生きることで必ず苦しみを背負う。その苦しみを軽くするために秘密を持つ。つまり、秘密が明かされたとき、または明かされたことによって秘密でなくなったとき、人は苦しみに耐えきれず死ぬ可能性があるということです。
彼女の考察の高得点は二人の自死(と未遂)によって、文字以上の力を持った。
だけど、誰も救ってはいない。自分さえも。自分の恋人さえも。
この痛烈なラスト。あ~と思ったら、原作者は「無伴奏」の人だった・・・!
う~。これもかなりキツイ内容だったし、主人公の彷徨い度は同じ。
別に不倫とか嘘とかそういう秘密だけでなく、野心とか希望とか、そういう心に秘めているのもの。そういうものが人を生かしているのではないでしょうか。虚栄心や恥をかかされると猛烈に怒る人がいるのも、それが根底の秘密に伸びてきた触手と考えれば理解できる。逆に、ミステリアスな人が魅力的なのも、それが生命に近いからなのではないでしょうか。