《内容》
信仰とは? 愛とは?
人間の原罪を問う暗黒の文学――。
Netflixオリジナル映画の原作となった問題作、ついに解禁!
戦後まもないオハイオ州南部の田舎町ノッケムスティッフ。病気の母親を亡くし、父親が妻のあとを追って喉をかき切り自殺した後、祖母のもとに引き取られたアーヴィンは、義妹レノラとともに育つ。狂信的だった亡父にまつわるトラウマを抱えながらも、愛する家族を護ろうともがくアーヴィン。そんな彼の運命は、世俗の欲にまみれた牧師、殺人鬼夫婦、腐敗した保安官らの思惑と絡み合って、暴力の連鎖へと引きずり込まれていく。そう、悪魔はいつもすぐそばにいた――。フラナリー・オコナー、ジム・トンプスンを凌駕する狂信と暴力をまとった、静かなる慟哭の黙示録。文学ノワールの到達点がここに。
帯にオコナーとあったので、買ってしまいました。アマプラ派だけどNetflixに乗り換えようかと思ってしまいました。
なんとなくハードボイルド感を感じる作品でした。個人的にはこの作品を思い出しました。
残酷な内容と吐き気を催す描写が徹底していて読了するのがキツかった・・・。でも甘さを徹底的に削ぎおとしている故の美しさがありました。
僕のそばにはいつも悪魔がいた
やがて、ウィラードは車にはねられて死んだ動物を拾ってくるようになった。犬、猫、アライグマ、オポッサム、マーモット、鹿。硬直がひどかったり、傷みがひどかったりして血が出ない死骸は、十字架やその周囲の木の枝から吊り下げた。死骸は熱と湿気ですぐに腐敗した。あまりの異臭にアーヴィンもウィラードも嘔吐をこらえながら、ひざまずき、救世主の慈悲に大声で縋った。白い脂肪がのたくりながら垂れてくるように、蛆虫が木々や十字架から滴り落ちた。祈りの木の周囲の地面は、血でずっとぬかるんでいる。
物語は主人公アーヴィンの壮絶な子供時代から始まる。アーヴィンの父親ウィラードは妻・シャーロットのがんが治るように自ら教会を作った。土の上にたてた十字架に生贄の血を注ぐ。十字架から滴り落ちる血は土へと還ることはなくその地に留まり続ける。
アーヴィンはただ日毎に弱っていく母と狂っていく父の間で祈り続ける。それが物語の始まりだ。
アーヴィンは父の狂いながらも大切な人を愛し守り続けた姿を胸に、いじめっ子たちに立ち向かっていく。派手にやるのではない。確実に仕留められる瞬間を狙ってしっかりと杭を打ち込んでいくのだ。
そうやって自分や異母兄弟であるレノラを守ってきたが、新しくやってきた牧師によってレノラも不幸になってしまう。
アーヴィンは父の背中を思い出し、牧師を追い詰めた後、両親が出会った場所へ旅に出る。しかしその先で、連続殺人犯の夫婦に出会ってしまう・・・。
どこまでも血がつきまとうアーヴィンの人生。相手が死のうが殺そうが、湧いてでてくる狂った大人たち。文体はアメリカっぽいハードボイルドで、描写は吐き気を催すほど鮮明にグロテスク。
オコナーは一見平凡というか普通の日常の中に潜むいわゆる普通の人の愚かさを描いているので、描写の過激さはほとんどないのだが、これは違う。まず人間もサイコパスだし、土地も非常に生臭い。読んでいるうちに海の匂いや夏に漂うじめっとした人の汗の不快な匂いや口臭が鼻を掠める。
誰におすすめできるってんだ!ってくらい不快なのですが、逆にめちゃくちゃ不快な気持ちになりたい人にはおすすめ↓
アーヴィンを取り巻く大人たちの汚さでアーヴィンがものすっごい輝いてみえる。レジスタンスのリーダーのような正義感と潔癖さと強さを持ち合わせている。後半はだんだんアーヴィンの壮大なSFもしくはファンタジー的物語が生まれてきそうなほど強キャラになっている。
気持ち悪いけど、ここまでキャラ立てて描ける作者すっごいな。と思いなんだかんだ買ってよかった一冊となりました。