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書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】キングダム エクソダス<脱出>〜善も悪もあることを心得よ〜

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《内容》

全世界を震撼させ、熱狂的ファンを生んだ伝説の北欧ホラーシリーズが"世界初"の劇場上映!
「キングダムⅠ&Ⅱ」デジタル修復版同時公開
コペンハーゲンの巨大病院<キングダム>で起こる、数々の不可解な事件...
夢遊病者のカレンは、謎の声に導かれ、キングダムへと辿り着く。
世界を破滅から救うために-

夢遊病者のカレンは、助けを呼ぶ謎の声を夢に見てキングダムにたどり着き、カレンは病院に憑く呪いを解くために、病院の用務係のブルザー、心臓外科医のユディットと手を組むが、悪魔の力に反撃されてしまう。一方、キングダムに赴任してきて間もないスウェーデン人医師のヘルマー・ジュニアは、亡くなった父スティグ・ヘルマーの秘密を探り始めるが・・・。

 

キングダムシリーズ全部見てきたんですけどね・・・

 

youtu.be

 

 

おい!トリアー!!!

 

脱出って脱出できたの観客だけやないかい!

脱出っていうか放り出しただろ!!

まぁこういうことできるのもトリアーだからだと思うんですけどね、それにしても惜しい。I,IIがものっそい勢いあったからこそ惜しかった。

 

でもこれすごいんですよ。

あのスティーブン・キングがリメイクしてるんですから。

マジでめっちゃ面白いんです。

 

全てが遅すぎる世界線

 まずキングダムI、IIでは、舞台となるキングダム病院その医師たちが描かれる。スウェーデンから赴任してきたプライドエベレストのヘルマー医師と、若手No1のクロウスホイ医師のバチバチ。愛国精神が強くデンマークやデンマーク出身の医師たちをことあるごとにこき下ろすヘルマーだが、モナという少女への医療ミスで裁判沙汰となっていた。

 なんとかカルテを改竄したいヘルマーだったが、先にクロウスホイが手に入れヘルマーを黙らせるための印籠として使うことに。

 

 一方霊が見えるけれど詐病を繰り返すドルッセ婦人は病院内のエレベーターで女の子の声を聞く。病院内で降霊術を行なったり、患者たちのメンタルヘルスを守っていたが、ヘルマーに檄ギレされ退院させられることになったが、エレベーターの少女の声が忘れられず再度詐病で入院する。

 

 クロウスホイは同僚のユディットに恋していたが、ユディットには恋人がいた。だが彼女は恋人と別れ身重の身であるがそれでも良いかとクロウスホイの想いに応える。しかしあまりに早すぎるお腹の子の成長にクロウスホイは恐怖を感じる。そしてそれがエレベーターの少女の弟であり、彼は生まれてはいけないとドルッセ夫人は言うのだった。

 

 ドルッセ夫人は少女がこのキングダム病院の創設者の不倫の証拠隠滅のために殺されたことを知る。そして全身ホルマリン漬けにされた少女を見つけるのだった。彼女を土に還しめでたしめでたし・・・となるはずが霊は消えるどころか増えるばかり。そして悪魔がこの病院にいることを突き止める。しかし悪魔がいるということは悪魔を呼んでいる誰かがいるということだ・・・そいつは一体・・・?というのがI,IIの大まかな内容である。

「こんな中途半端あり得ないわ・・・」とキングダムI,IIのDVDを見て呟くのが夢遊病のヘレンエクソダスの主人公であり観客の代弁者である。

 

 残念だが、I,IIは1995、97年の作品なので、主要人物のヘルマーやドルッセ夫人のキャストは亡くなっている。馴染みのキャラクターが一新されもはや新・キングダムとなっているのがエクソダスであり、I,IIの後のことを語るものは誰もいなくなっている。

 

 そんな中、ヘレンはまだこの中にいるモナリトルブラザー(少女の弟)を探すのだが・・・

 

↓↓↓↓ここからネタバレになります。↓↓↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

結局物語の主導権は作者であるトリアーにあるのは周知の事実なのだが、サタンがトリアーとはビックリなのである。

 

 大体前作のユディットの堕胎が遅すぎてリトルボーイが生まれてしまうことや、肝臓医師の手術が間に合わないことから後手後手な筋なのはわかっていたけど、だからこそ最後は帳尻が合うのだろうと期待させといて、最後の最後まで間に合わないどころか、サタンであるトリアーが召喚され、物語は強制的に終わりを告げ、物語の中の観客であるヘレンは逃げ帰っても焼き殺されてしまう。

 

 このヘレンは私たち観客の精神のメタファーでもうこれでキングダムシリーズに一縷の希望も抱かないでくれ!というトリアーからのメッセージなのだと感じた。

 

 そもそもヘレンがDVDを見たのも遅すぎるし、リトルボーイももう溺れる寸前だし、死んだはずのモッゲに気づくのも遅すぎるし、反転したデンマーク語に気づくのも遅過ぎるのだ。逆に言えば危機感がなくなんとなーくのほほんとした空気感があるのだ。

 

 最後の回収は見事で、I,IIで活躍していた医師、クロウスホイ・ユディット・ヘルマーの恋人の女医もそれぞれ凄惨な死を遂げる。善も悪も関係なく関係者は死んでいく。謎の死を遂げたとされるヘルマー含め全員が原因不明死だ。

 

 ユディットがリトルボーイを絶命させる際、辛くて泣き出してしまうユディットにリトルボーイが投げかける

僕が死ぬことも、僕とママにとっては大事なことでも宇宙から見たらなんてことないんだ」というニュアンスの言葉がこの物語の主軸であるからこそ死に明確な原因をつけていないのかもしれない。

 

 詐病だったり夢遊病だったり世間一般からは受け入れられ難く、ヒーロー像からはほど遠い老婆を主人公に充てるトリアーのスタンスは変わらないんだなぁと思いつつ、もっと漂白職人のこととか悪魔崇拝の起点がどこだったのかとか、掘り下げて欲しかったなぁとそこはちょっと残念でした。

 それにしてもコメディ色が強くあっという間に見れてしまったキングダム。トリアーはやっと片付け終わったぜ!って感じかもしれないのですが、観客はまだまだキングダムから抜け出せません。。キング版を見ようかな・・・