深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

秘密/谷崎 潤一郎〜男であるときは、刺激に踊らされるが、女であるときは秘密そのものとなる。〜

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《内容》

普通の刺激に慣れ切った私は、女装をして浅草の街中を歩くことに悦楽を覚え始める。だが、映画館の貴賓席で、かつて暫く関係を結んでいたT女と出会い――。秘されたものに魅了された男を描く「秘密」。

 

やっぱ谷崎潤一郎は面白いわ。

最後残酷だろwって思ったけど、絶対そうなるよなぁって思ってた。

谷崎作品、主導権は常にM側にある。

 

秘密の関係は秘密がなければ成り立たない

 

その頃私の神経は、刃の擦り切れたやすりのように、鋭敏な角々がすっかり鈍って、余程色彩の濃い、あくどい物に出逢わなければ、何の感興も湧かなかった。微細な感受性の働きを要求する一流の芸術だとか、一流の料理だとかを翫味するのが、不可能になっていた。下町の粋と云われる茶屋の板前に感心して見たり、仁左衛門や鴈治郎の技巧を賞美したり、凡べて在り来たりの都会の歓楽を受け入れるには、あまり心が荒んでいた。惰力の為めに面白くもない懶惰な生活を、毎日々々繰り返して居るのが、堪えられなくなって、全然旧套を擺脱した、物好きな、アーティフィシャルな、Mode of life を見出して見たかったのである。

 

 主人公は無気力で堕落した生活をしていた。そしてそんな生活に嫌気が差していた。なんとか自分を奮い立たせるものに出会いたかった。非現実の世界に身を置いて刺激に慣れきってしまった神経をなんとか回復したかった。

 

 その中で「秘密」という言葉に惹かれ、私は女ものの服を買い、白粉や紅を買い、夜な夜な女装をして街を徘徊するようになった。男であっても女の姿になると自分の行動が女になろうと動くのが新鮮だった。男の目で既に見たものも、女の姿になって見ると新しいものに見えた。

 

 そのように女を楽しんでいたある夜、いつか自分が捨てた女と再び出会う。女は女装している私がかの男であることに気づき、私もまた女に恋慕の情が湧き起こるのに気づき二人の逢瀬が再会する・・・

 

「何卒そんな我が儘を云わないで下さい。此処の往来はあたしの秘密です。この秘密を知られればあたしはあなたに捨てられるかも知れません。」

 

「どうして私に捨てられるのだ。」

 

「そうなれば、あたしはもう『夢の中の女』ではありません。あなたは私を恋して居るよりも、夢の中の女を恋して居るのですもの。」

 

 秘密を求め、秘密そのものとなった私は、次には秘密を暴こうとし出す。女は男の性質をよく理解しているため、自分との逢瀬には目隠しをして永遠に自分の素性を隠そうとするが…。

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 私は男であるときは、刺激に踊らされるが、女であるときは秘密そのものとなる。男女をよく知った谷崎潤一郎ならではの作品という感じでゾクゾクしました。大好き。