≪内容≫
ベストセラー『虐殺器官』の著者による“最後”のオリジナル作品。21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は見せかけの優しさと倫理が支配する“ユートピア”を築いていた。そんな社会に抵抗するため、3人の少女は餓死することを選択した……。 それから13年後。死ねなかった少女・霧慧トァンは、医療社会に襲いかかった未曾有の危機に、ただひとり死んだはずだった友人の影を見る――『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。日本SF大賞受賞作。
虐殺器官が面白いなーと思って次作と言われるこの「ハーモニー」を読んでみました。
虐殺器官の最後、クラヴィスが起こしたアメリカ内での虐殺事件(大災禍)の次の時代のお話・・・。
殺さず生きるべきか殺して生きるべきか、それが問題だ。
人々は大人になると「Watch Me」と言われる恒常的体内監視システムを身体にインストールし、病気も肥満も不摂生もない痛みのない身体へ。
暴力的な視覚は資格を必要とし、芸術家はフィルタのおかげで悪趣味なアイディアを思いつけないようになっている。
精神的にも、肉体的にも人を傷付けない徹底的に優しい世界。理想郷。
そんな世界に絶望した自殺者もいるが、ウエルテル効果を恐れ非公開になっている為、自殺者はほぼ認識されていない。
この、真綿で首を絞めるような、優しさに息詰まる世界に徒なす日を夢見るミァハ。主人公であるミァハが求めたユートピアとは・・・。
「Watch Me」をインストールしてる人間の中脳に誰に断りも入れず張ったソースコードにより、人を殺さなければ自害させられる。
そこまでしないとこの世界を作った老人達は意識を消滅させるボタンを押さない。
意識があるから絶望する。
ならば意識など亡くしてしまえばいい。
「Watch Me」が身体を守ってくれる。ライフプランナー、ライフデザイナーが人生を導いてくれる。指示してくれるソフトウェアに従えば意識など必要ない。
「この世界がこれだけ嫌だ、って人が、毎年毎年何百人も死んで、そのすべてが、自殺なんて人間としてあるまじき最低の行為をしたって、そんなふうにかわいそうに蔑まれてても、それでも人間は意志を、意識をなくしてしまうべきじゃないって。わたしはそんなのおかしいと思った。わたしは何とかしなくちゃ、って思った。わたしは毎年無為に命を落としていく何百万の魂のために、魂のない世界を作ろうとしたの。」
御冷ミァハ
結局どんな理想郷だって自殺者は出る。
けれどそれは許されない。
自殺は許されない。
精神的にも、肉体的にも人を傷付けない徹底的に優しい世界。理想郷・・・そう、ナルトのマダラが求めたように。
「この現実はチャクラという力によって無限の苦しみを強いられている。
力があるから争いを望み
力がないからすべてを失う。
俺はそれを乗り越えた新たな世界をつくる。
無限月読により忌まわしきチャクラなき夢の世界をつくるのだ。」マダラ
思うのはミァハもマダラも自分以外の人間を、世界を信じられないんだろうなということです。
そのくせ世界を愛してる。本当は人間が好き。だから救いたいと思ってる。
「フィクションには、本には、言葉には、人を殺すことのできる力が宿っているんだよ。すごいと思わない」
御冷ミァハ
ウェルテル効果についてのミァハの台詞。
内容がフィクションだろうが、話し方、書き方一つで人の深層心理に入り込み侵食していく・・・。逆に入り込めない話は本物だろうが人を動かすことは出来ない。
伊藤さんが言葉に対して畏怖の様なものを感じているのか、二作品見て「言葉とはなんだろう」と思ってる私がいます。
もっともっと伊藤さんの作品、伊藤さんが思う世界を観たかったです。
近い内に屍者の帝国を読む予定です!