その人は、何でも治してくれる。壊れた人形、死んだ猫、そしてあなただって。生と死を操る奇妙な修理者が誘う幻想の世界を描き、日本ホラー小説大賞選考委員会で絶賛を浴びた表題作ほか、書き下ろし1編を加えた作品集。
面白かったー!
ホラー小説なのですが、あまり怖くなかったです。
私が慣れてしまったのか、本当に怖いのは現実の人間さ・・・と思っているからなのか、純粋に面白い作品です。
「酔歩する男」はホラーSFという感じで私の中で新しかったです!理系×ホラー面白い!
玩具修理者
その時計には生命がなくて、人間には生命があるとどうして言いきれるの?時計に生命があって、人間に生命がないかもしれないじゃないの。
壊れたおもちゃも死んだ猫も人間もぜーんぶ治してくれる修理者。
では、まだ息のある人間を修理したら殺人罪なのか?
修理者は修理するのに全てを綺麗に分解してから組み立てる。
修理者は時計には適応して、人間に対しては殺人者になるのか?
無生物と生物の違いとは何か?
そんなお話です。
いつもネタバレ前提で書いているのですが、この作品はシックス・センスのあとがきと同じでネタバレしたら終わるので、内容に関しては触れません。
ただ、最後にはゾー・・・っとしたのと、はっとさせられたのと、まんまと気付かずに最後まで読んじゃった!!とやられた感で終わりました。
何も隠されていないのに、いつの間にか自分の思考から取り払われていた感じでした。魔術師の手を目の前でずっと見ていたのに消えてしまったバラみたいに、最後まで消えちゃっていました。
あそこで気付けただろう!!って悔しくなりましたが、それだけ面白かったですね。ホラーと言えば黒い家のような怖さが私の中ではメジャーでしたが
酔歩する男
すべての常識を持たない赤ん坊に戻れれば、時間は簡単に逆行できるはずだ。ただ、皮肉なことに時間を逆行しなければ、赤ん坊にはなれない
タイムトラベルホラー(?)と言うのでしょうか。
手児奈という女性を奪い合った二人の男の話です。
どちらかに決めてくれ!という二人に返事をするといって手児奈は死んだ。
その日から二人の男は手児奈が死ぬ前の世界に戻ろうと研究を重ねます。
こちらもネタバレするとつまらんのですが、手児奈という名前からして胡散臭さMAXでありキーマンであることは明らかです。
この物語、手児奈伝説を元にされているようです。
簡単に言うと、手児奈というとてもとても美しい女性がいてたくさんの男性が彼女に求婚し争います。それをみた手児奈は心は分けられても身体は一つしかないから自分さえいなければ平和になると思い自殺してしまいます。残された男はなぜ手児奈の気持ちを考えなかったのだろうと後悔するのでした。
この物語は死んでしまった手児奈を救うために時間を逆行しようとする二人の男の話です。
しかし、手児奈は二人の男の一人・血沼の妻として存在しています。
手児奈の性格をもう一人の男・小竹田はこう言っています。
「この花の匂い、音階で言うとラのシャープね」手児奈はよくそんなことを言いました。
「ラのシャープ?どういうこと?この花の匂いを嗅ぐと音が聞こえるの?」
「ううん。そうじゃないわ。この匂いとラのシャープが一緒なのよ。小竹田さんはそうじゃないの?」
「え?だって、音は音、匂いは匂いだよ。変なことを言うなよ」わたしはあまり手児奈が真剣にいうので、笑ってしまいます。
この感覚は「共感覚」というもので、赤ん坊が持っているものです。
つまり手児奈は時間を逆行できる力を持っていたということになります。
私の妄想ですが、手児奈は自分を奪い合う世界に来たら死ぬ(その世界から消える)ことにしていたのではないかなと思います。
血沼の妻になったのは、小竹田が妻を娶ったから。
2人とも独身の世界では永遠に失われ、どちらかに配偶者のいる世界には存在する。
しかしこの考えは最後に否定されます。
二人は死んでしまった手児奈を救うために、時間を逆行しようとしました。しかしその結果こそが手児奈を生みだした。
まず彼らは時間を司っている三半規管を傷つけ時間感覚を失うように自分自身に手術をしました。
ですが、小竹田は自分の望む世界には行けず点々と色んな世界に突如現れるようになったので手術に誤りがあったと思い手術をする前の世界に運よく飛んだ時に手術を回避しました。
しかし、次の日もタイムトラベラーとして起きてしまった小竹田は気付きます。
時間を司っていたのは脳ではなく精神だと。
精神に傷がある状態で過去に飛んでもその傷はなかったことにはならない。
傷の入ったビデオテープをダビングしても綺麗なテープが出来あがらないように。
小竹田は絶望し自死を繰り返しますが死んだ瞬間に過去に飛んでしまい永遠に時間の中で彷徨うようになります。
しかしこれは能力ではなく欠如であり、手術で失ったのは「時間を認識する能力」「時間を制御する能力」「波動関数を再発散させない能力」です。
この3つの能力を小竹田は失いましたが、一方の血沼は「波動関数を再発散させない能力」だけを失いました。
つまりタイムトラベラーではなく、日々は連続しているが、自分以外のものは常に姿・形を変えている状態です。たぶん。
これが冒頭の
誰もが経験することかどうかはわからないが、わたしは絶対にあるはずの場所にどうしても行けないことがよくある。
に繋がります。
今更ですが、私は物理がだいだいだいだい大嫌いです。
ですが理解したいがためにちょっとだけ量子力学を勉強(?)ググりました。
まず波動関数の発散ってなんやねん。
というオツムだったので、なんだか面白そうなのは分かるけど分からないって状態でした。(今もたぶん曖昧ですが・・・)
作中にある「シュレーディンガーの猫」の話は、ざっくり言うと箱に入った猫が死んでいるか生きているかはどちらも50%の確率で、箱を開けてみるまで生と死は同じ場所にいるという感じの話です。
この猫ちゃんの生死がいわゆる波動関数です。たぶん。
私たちは生きながら死ぬことは出来ないし、その反対も出来ません。
生と死は一緒にはなりません。
なので、私たちの生きている世界は生→死へと向かっています。
なので常識で過去→現在→未来となっていますよね。
しかしシュレーディンガーの猫ちゃんの話になると、生と死は同じ場所にあるので過去→現在→未来の常識がぶっ飛びます。
うんと、たぶん、普通の人間は生と死が一緒じゃない世界に生きています。だけど二人は手術したことで、生と死が同じところにある世界に生きることになりました。
なので、過去に起こったことが未来に繋がっているのではなく、未来に起きたことが原因となって過去に生じるという現象が起きます。
それが手児奈の存在です。
彼女が原因で二人が能力を失ったのではなく、二人が能力を失ったから手児奈が生まれたということになります。
ちょっと量子力学に関しては真面目に本を読みたいと思います。
ググるだけだと難しいし、説明したいのに出来ないし、合ってるか分からないのを見てもらうのも心苦しいところですが、この本を読んだ当時の私の読解のレベルの記録として残しておきます、、、
まぁ死ねないのが一番怖いよね!って思いました。
苦しみとか痛みとか死んだら解放される!って思うけど、死ねないなら絶望だよなぁって思いました。
しかも、時を彷徨うとかいうレベルじゃなく常に色んな時代に色んな年齢で出現する。
連続性のない人生がこれほど残酷に思えるのは、やっぱり継続は力なりというように日々何かしら積み上げていくことが生きる醍醐味と言えるからだと思います。
何か勉強したり、作ったりするのでなくてもテレビなど受け身のものもやはり連続している。
量子力学めっちゃ奥深そう!!!
しかも哲学的!!!!ハマる予感。。。
ラブクラフトも読みたくなってきたー!!!