パッケージに騙されるの巻。
こういうの予備知識なく見るとダメージ大きい。
ていうかこれブラックスワンじゃんかー!!!!
※これは結構ガチでキツイ映画です。
男の必要性
主人公のエリカは39歳にもなったというのに、まだママと同じベッドで寝ているし、男を知らない。父の存在はよくわからないけど、ママはエリカにひどく干渉する。
部屋に教え子(男)が来たとなると「大人なんだから好きにしなさい」と言ったすぐあとに「これが・・・全てを捧げた結果か・・・」と口にする。
39歳になっても自分を子供扱いするママに対して、自分がどんどん大きくなるのは罰だとでも言うように自分を子供のままの状態にするエリカ。
そんなエリカにアタックするのが青年・ワルター。大学生くらいの年齢。
専攻は低電圧です!とかいう理系の学生はエリカの気を惹きたくて音大に編入してきます。(なにこのハイスペック)
エリカは恋やオシャレを禁じてきたので、このイケイケドンドンアタックに動揺します。しかし、心の底では恋がしたい、セックスがしてみたい、男を知りたいという欲望が確実にあります。
彼女の中で男というのはとても遠い存在です。
日本でいう漫画喫茶?みたいな個室に入りAVを鑑賞するエリカ。しかも男性が精液を拭き取ったであろうティッシュを「スーハー」と思いっきり吸い込む。他にもカーセックスしている車の近くにしゃがみ込み放尿してみたり。
男とかセックスが彼女にとっては夢、幻のようなもので「自分には手に入らないもの」「無縁なもの」なのです。
だからエリカはワルターに手紙を書く。内容はおったまげるようなSMプレイの要望である。
「殴って!怒ったなら殴って!殴ってよおぉおおお」と頼み込むエリカ。
ワルターは病院に行った方がいいと忠告し、手が傷付くから殴らないという。(え、ここで俺腐ってもピアニストだぜ?的な?)
父も恋人もいなかったエリカにとって異性との関係をどうやって結ぶかというのは自然に心からわき上がってきません。ここでワルターに隷属したいエリカと純粋に愛し合いたいワルターはすれ違う。
形勢逆転でエリカがワルターを追っかけるんですが、これワルターもめっちゃ傷付いています。
キレたワルターは夜中にエリカ宅に押し入り、「今から手紙の書いてあった通りにやってやんよ!シナリオ暗記してきたぜ!!」と意気揚揚に乗り込み、母を閉じ込めエリカを殴る!!!
エリカは自分で望んだのに、というか手紙の内容の一部分であるビンタしかされていないのに涙がぽろぽろと出てきて止まりません。
ここでエリカは男を知ります。
ここに来るまでちょっとした行為はあったものの、それはエリカの想像の範囲内でした。「男ってこうすればいいんでしょ?」「男なんて何言ったって傷付かないでしょ?」「私の言うことを聞いてればいいのよ!」という考えをワルターは口を挟みながらも受け入れてきた。
しかし、自分の望みであったビンタは想像よりもずっと痛くて気持良くなかった・・・。夢から醒めた瞬間である。
ワルターからすればなんでエリカが泣くのか、それもシナリオの一部なのか、泣いてる自分に浸りたいのか、本当に拒絶しているのか分からない。
しかし、多分エリカも自分で自分が分からない。
ワルターが自分の望み通りに動いてくれれば幸せになれるはずだった。母から逃れ、男を知り、知ったことで母に復讐出来るはずだった。
なのに、実際は目の前のワルターが怖くて閉じ込められた母が可哀相で自分がどうしたいのか分からない。
もしもエリカの心に触れようとしたのが知的な姉様に憧れる青年ではなくて、傷付いた野良猫を助けてあげようとする老紳士だったなら、少しは違っていたんじゃない?と思う私でした。
若さってそこが魅力だけど、真っ直ぐすぎて痛いときがある。
「変態かよ!病院行けよ!」じゃなくて「なんでこう思ったの?」「何かお母さんと問題があるの?」と聞いていたら。
無防備なくらい大胆に迫ってきたからドラマチックさで言えば若者に軍配が上がるのは分かるけど、何年もかけて氷を溶かすような長く温かい目で見つめ続けてくれるおじ様も素敵だと思います。
たぶんエリカに必要なのは、そういう優しい眼差しを持ったお父さんなんだろうな・・・と密かに思ったり。
とはいえワルター青年も時折この変態的恋愛を思い出してトラウマになるだろうな、と思います。最後に「先生」と割り切ったように話しかけてきていても、本当は傷付いてるんじゃないかなぁ、とか。
恋愛のドロドロしたリアルな痛みとかエグさを描くのは絶対フランスなんだよな。返事が返ってこない悩みとかどうでもよくなるよ・・・←