深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

ハックルベリ・フィンの冒険~本当の正しさに辿り着くために地獄を覚悟しなければならない。~

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≪内容≫

ハック・フィンにとって大切なもの―勇気、冒険、そして、自由。窮屈な生活から抜け出すために、ハックは黒人ジムを相棒に、ミシシッピ川を下る逃亡計画をはかる。途中で出会う人人は、人種も生活も考えもバラバラ。何度も危険にさらされながら、他人の親切に助けられて…ふたりが手にした、本当の自由と幸せとは?アメリカの精神を生き生きと描いたトウェインの最高傑作を、最新の翻訳で贈る決定版。

 

かろうじて「トム・ソーヤー」という名前は知っていても、ハックルベリ・フィンは全く知らなかったし、もちろん「トム・ソーヤーの冒険」も読んだことはありません。

 こういうとき、ほんと児童時代に本読んで来なかったんだよなぁって思います。

きっかけは、この本の中で本書の話題が出てきたことから。

「サリンジャー戦記」の記事を読む。

アメリカ文学の由来とも言われてる本作。エンデといい児童文学の深さには驚くばかり。

 

ハックルベリ・フィンという勇者

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それに正しいことをしようと努力しても、オレにはなんの役にも立たねぇのだ、ということが分かっていたからだ。人は、小さいときに正しい始め方をしなかったら、もうチャンスはないんだーピンチになったとき、自分をバックアップしてくれて、とことんまでやらせてくれるものが、なんにもないんだ。だから負けちまうんだ。

 

  ハックルベリ・フィンは母がおらず、父はアル中でハックが得た大金を目当てにハックを監禁する。ハックはハックで一度はきちんとした教育を受ける環境に身を置くことになるが、その生活よりも父との気ままな原始的な生活の方が馴染みがあった。

 

 しかしそれでもハックは親父から逃げだすために偽装工作をして自分が何者かに殺されたと見せかけ逃亡する。逃亡した先の無人島にいたのが黒人奴隷のジムだった。

 ジムもまた奉公先から逃げだしており、二人の逃亡者はあてのない放浪の旅に出るのだった。

 

 引用文にあるように、「人は、小さいときに正しい始め方をしなかったら、もうチャンスはないんだ」という部分は多かれ少なかれ現代人にも思うところがあるんじゃないでしょうか。そして続く「だから負けちまうんだ。」もそう。

 

 「ピンチになったとき、自分をバックアップしてくれて、とことんまでやらせてくれるもの」に値する親や環境がない場所に生まれたハック。そしてそのことを自覚していて、それでも解決策を探そうとするハック。その為の嘘は数知れず。だけど、その嘘は果たして罪なのだろうか?

 生きるための嘘やジムを助けるための嘘と、誰かの金を奪い、死人に口なしとばかりに嘘八百で人をだますことは同じ罪なのだろうか。

 

子どもの目に映る残酷な世界

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だが、いつだってこうなんだ。正しいことをしたって、間違ったことをしたって、なんの違いもねぇんだ。人間の良心ってぇものは、分別なんかもってねぇんだ。だから、人を責めるんだ、どっちにしたってな。 

 

  人を騙し、金を奪う悪党。

その悪党を捕まえ残酷な処刑する人々。

正しいこととはなんなんだろう?

 

というのが、この「ハックルベリ・フィンの冒険」の中に流れ続けてるクエスチョンだと思う。

 

 教会に行って罪を悔い改める人間が、黒人を人とも思わず家畜として扱う世界。神を信じる人間が正しいなら、その人間がやってる黒人差別は正しいことなの?

 ハックは自分のことを「正しいことをしようと努力しても、オレにはなんの役にも立たねぇ」と思ってる。ここで言う正しいこととは、黒人奴隷で逃亡したジムを白人に引き渡し、自分も教会に通い罪を悔い改めることである。

 

 ハックの強みは、自分は正しいことはできない。だったらとことん悪事を働いてやる。社会に背いてジムを助ける。そうやって社会が強要する愛じゃなくて、個人の中に生まれた友愛を信じ貫くところです。

 

おいらはよく目にしたが、ジムは自分の見張りの番をした上に、おいらの分まで見張りをしてくれていた。おいらがそのまま眠っていられるように、と思ってだ。また、ジムが大喜びした姿も見た。おいらが霧の中から戻ってきたあのときだ。それに、沼の中でジムとまた巡りあったときもだ。あの宿恨のあった所だ。そのときのことを、いろいろと思い出した。そしてジムはいつも、おいらのことをハニーと言ってくれたり、抱きしめてくれたり、思いつくかぎりのことをしてくれた。そしていつも親切だった。 

 

  ハックはあるとき、いいことをしようとします。

 ジムを引き渡そうとするのです。

 だけど、そう思っても、ジムが自分のためにしてくれたこと、他の家に売り渡されるのが嫌で逃亡してきたと話してくれたこと、家族を思って筏の上でひっそりと泣いていたこと、そして、いつもハックの帰りを待っていてハックのことを大事な友人だと言ってくれたことを思い出すのです。

 そしてハックは「オレは地獄に行こう」と心に決めるのです。

 

 この時代に読むには当たり前すぎてあまり感動はないかもしれませんが、白人の子供が黒人奴隷を助けるというのはかなり無鉄砲で無茶で無知でアタマガオカシイと言われる大冒険だったのではないでしょうか。

 

 たとえば学校の中の数ある教室の中の一室で生まれた迫害。その迫害のルールは小さな小さな世界の出来事です。社会とはほど遠い小さな空間の中の出来事です。

でも、小さな空間だろうが、生まれてしまった迫害を否定すること、迫害されている人を助けるというのはかなり勇気がいることです。その世界では、ハックが生きた世界と同じ、正しいことと悪いことが逆転しているからです。

 

 人は誰でも正しいことを行いたいし、正しい道を歩きたい。だからハックのように「オレは地獄に行こう」という決意なしでは、狂った世界に太刀打ちできないのです。

 

本当の正しさに辿り着くために、地獄を覚悟しなければならない。

もう夏休みも終わっちゃうけど、子供にはぜひ読んでもらいたい児童文学でした。もちろん大人でも楽しめます。

みんな大好き少年ジャンプの構成が「友情」「努力」「勝利」なら、本書もまた少年ジャンプ的作品で間違いない。プラス「感動」付き。