≪内容≫
そばにいても離れていても、私の心はいつも君を呼んでいる―。都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する女子高生…ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。居場所を求める繊細な心模様を、クールな筆致で鮮やかに描いた心潤う連作小説。
フジファブリックとか・・・まじか!!
映画は見てないんですけど、小説の雰囲気はこの予告編で伝わります。
8編入っていて、その中に出てくる女の子(と男の子)はそれぞれ別ですが、女の子たちの記憶の中には「椎名君」という一人の男の子が共通で出てきます。
クラスの中心的人物で、誰もが憧れてた。皆が欲しいものを全部もっていた椎名君。はたして彼は何者なのか。
8編の紹介
私たちがすごかった栄光の話・・・田舎町を抜け出したものの、何者にもなれず幸せも見つけられないまま戻ってきた女の子は、地元でひっそりと暮らす中、椎名に連絡を取り久しぶりに会うことなる。
十八歳以下の日々を思い返したとき、あの朽ちかけたゲームセンターで過ごしたひとときしか、青春と認定できる時間なんてない気がする。あの時間だけがすごくすごく良くて、それ以外はスカだった。
やがて哀しき女の子・・・田舎町には不釣り合いな美少女が東京から戻ってきた。戻ってくるとそこには若き自分に憧れていた年下の女の子がいた。2人は結婚相談所に通い結婚なんて興味なかったのに結婚する。年下の南は椎名と結婚することとなる。
女の子はみんな、誰だって、やがてはこんなふうになるってことを。結局は同じ一本の道しかないことを。なりたくないと言っていたものに、やがてはなりたがるんだってことを。
地方都市のタラ・リピンスキー・・・ゲーセンに入り浸るゆうこはそこで店長をしていた椎名と出会う。
とにかく状況は最悪だった。
心を打ち明けられる友だち一人いない。恋人なんていたことがない。レジの店員以外と、話す機会がない。
君がどこにも行けないのは車持ってないから・・・車がないから迎えにくる男とイヤだけど面倒だけど関わる。車がないから。
「免許とれ」とか言って世話を焼くのは、あたしのことを心配してるからだと思ってた。心配してくれてるってことは、好きだからなんだと思ってた。椎名はあたしを大好きなんだと思ってたし、最終的には椎名と結ばれる運命なんだと信じていた。
アメリカ人とリセエンヌ・・・大学に留学していたアメリカ人のブレンダは椎名といい感じになる。ブレンダの親友である私は、もしもアメリカ人に生まれていたら何もかも上手くいっていたはずだと思えて仕方ない。
なんでわたしは日本に生まれたんだろう。なんでわたしは日本人以外のものにはなれないんだろう。
東京、二十歳。・・・一人でどこにでも行ける女になりたくて東京に出てきた女の子のお話。(椎名は出てこない)おそらく、田舎に帰ってきた女の子たち全ての20歳のときの物語。
東京の街にどれだけ疲労困憊しても、朝子は元気だった。
彼女の人生ははじまったばかり。田舎になんか、帰らない。
ローファ-娘は体なんか売らない・・・お金を貰わずハゲ親父と寝る高校生。それは愛していたからだと思った矢先、椎名の姿が目に入る。彼女は椎名が自分を慰めている姿を想像してみる。
あの自転車の後ろに乗せてくれたらいいのに、と彼女は思う。そうしたらこの傷ついた気持ちが、ちょっとは慰撫されるかもしれない。あんなにハゲ頭を撫でていたのに、彼女の頭をそうやって撫でてくれる人は誰もいなかった。
十六歳はセックスの齢・・・十六歳になったらしなきゃ!と焦る十五歳の少女が二人。一人は現実にこなし、一人は椎名に恋したまま夢の世界で16歳を過ごした。少女の誇大妄想は現実には叶わない。それだったらずっと空想していた方が幸せなのかも、と思う、切ないお話。
柴田くんとはちゃんと海へ行けたけど、それと薫ちゃんと一緒に行けなかった海と、どっちが楽しかったかというと、よくわからない。
椎名とは何者か
夢の中で椎名くんは、年をとらない。体つきは薄く、肩は頼りなく骨張って、学ランをだらしなく着崩し、自転車を漕ぐのが滅法速い。放課後の廊下、遠くから反響する大勢の声の中からでも、薫ちゃんは椎名くんの声を一発で聞き分けることができる。
椎名くんはみんなの中の青春のシンボルなんだと思います。
自分たちは大人になっていくけど、彼だけはあの場所に居続けているはず。彼が自分たちと同じように年を重ねていっているのは分かっているけれど、彼が存在するところは全て青春の舞台になっちゃうみたいに、彼=青春という認識が、彼女達の潜在意識にあるのかなぁ、と思いながら読んでいました。
おそらく「ここは退屈迎えに来て」に続き「じゃあどこに行く?」の行き先は、過去の青春時代しかないと思うのです。すると、もう私たちはどこにも行けない。そういうもうどこにも行けない感がこの作品の魅力な気がします。絶望もなく希望もない、ただ在る状態。