≪内容≫
務所から出所したばかりの大男へら鹿マロイは、八年前に別れた恋人ヴェルマを探して黒人街にやってきた。しかし女は見つからず激情に駆られたマロイは酒場で殺人を犯してしまう。現場に偶然居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらました大男を追って、ロサンジェルスの街を彷徨うが…。マロイの一途な愛は成就するのか?村上春樹の新訳で贈る、チャンドラーの傑作長篇。
今年残るところあと40日くらい。
私立探偵フィリップ・マーロウシリーズ読破したい・・・!
マーロウは全然クールじゃない
どこまでも勇敢で、強情で、ほんの僅かな報酬のために身を粉にして働く。みんながよってたかってあなたの頭をぶちのめし、首を絞め、顎に一発食らわせ、身体を麻薬漬けにする。それでもあなたはボールを離すことなく前に前にと敵陣を攻め立て、最後には相手が根負けしてしまう。
ハードボイルドォオオオオオオオ!
マーロウって全然クールじゃなくて、日本語で言うと「おせっかい」が近いと思うんですが、何でも首つっこみます。でもただ首つっこむだけなら、殺される役か、野次馬的モブで終わるところをマーロウはつっこんだ責任を負います。
本作では
- 唐突に金の交渉に付き合わされ殴られる
- インディアンに締め上げられる
- 麻薬漬けにされる
- やばい船に乗り込む
- 酒をたらふく飲まされる
などなど、もはや「大人しくしてればそんな目に遭わなかったのに・・・・」と言いたいくらい首をつっこんだ代償がでかい。
しかも本タイトル「さよなら、愛しい人」というのは、マロイのヴェルマへの想いでもあり、ヴェルマの夫への心であると思う。つまりマーロウは全く関係ない。
冒頭でマーロウはマロイと出会う。
全くの他人である。ちょいと一緒にお酒を飲んだだけ。しかもマロイは酒場で人を殺し颯爽と消えてしまった。それが二人の出会いであり、それ以上もそれ以下も描かれていない。のに・・・
ただ私が言いたいのは、マロイって男は好んで人殺しをするようには見えなかったということだよ。追いつめられたら殺すかもしれない。しかし楽しみや金のために人を殺すことはない。
と一緒に捜査することとなった刑事に断言している。
マロイはそんなマーロウの思いなど知らないし、マーロウもマロイに恩を着せたいわけじゃない。マーロウはマロイの女への愛に何かしら美しいものを見たんじゃないでしょうか。
人が人を尊敬したり愛するとき、それはお金でも名誉でもなくて、美学だと思うのです。まだ三作しかマーロウシリーズを読んでいないのですが、おそらくマーロウがここまで読者を惹きつけるのは、マーロウの美学なのではないかと思います。
「たいていの男は薄汚い獣よ」と彼女は言った。「そんなことを言えば、この世界だって薄汚い世界なんだけどね」
「そこでお金がものを言う」
「それはお金を持ちつけない人間が考えることよ。実際にはね、お金は新たな面倒を産み出すだけ」、彼女は意味ありげな微笑みを浮かべた。「そのうちに古い面倒がどれほどきついものだったか、思い出せなくなる」
お金では動かせない探偵。フィリップ・マーロウという人間は金ではなく人で報酬を得てる。笑うせぇるすまんをちょっと思い出しました。