深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

大いなる眠り/レイモンド・チャンドラー~全てを与えられてしまったばかりに自分で壊すしかなくなった姉妹の悲劇~

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≪内容≫

私立探偵フィリップ・マーロウ。三十三歳。独身。命令への不服従にはいささか実績のある男だ。ある日、彼は資産家の将軍に呼び出された。将軍は娘が賭場で作った借金をネタに強請られているという。解決を約束したマーロウは、犯人らしき男が経営する古書店を調べ始めた。表看板とは別にいかがわしい商売が営まれているようだ。やがて男の住処を突き止めるが、周辺を探るうちに三発の銃声が…。

 

 フィリップ・マーロウシリーズの一作目。

 なぜか私が最後の方から読み始めたので、一作目のマーロウはけっこう饒舌で喰ってかかるような好戦的な人物に見えました。

 「プレイバック」だと哀愁が漂っていたのですが、今回のマーロウは「ああん?」って感じでタフというよりやんちゃな感じがありました。

 

死んでしまえば金も石油も関係ない

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 この物語は超大金持ちの将軍が死を前にして現在を清算する話しです。

登場人物は

  • 将軍
  • 将軍の長女(ふしだら)
  • 将軍の次女(ふしだら)
  • 将軍のお気に入りだった男で長女の夫

が主な人物です。

実際はもっと色んな強請り屋とか殺される男とか警部とか出てくるんですが、まあ大筋はこの将軍一家になってます。

 

 マーロウは消えた長女の夫を探してほしいと将軍から依頼されて、調査を始めるのだけど、なんだかんだ二人の姉妹がマーロウにちょっかいを出してくる。

 妹は裸でマーロウのベッドに忍び込むし、姉は正面切って誘ってくるのだけど、マーロウはのらない。

 この奇妙な姉妹に茶々をいれられるマーロウはどことなく若く、まだ隙がある感じがうかがえます。さすが一作目。まだまだマーロウが若いという背景まで読者に伝わるのは、チャンドラーの力量なのか・・・偶然なのか・・・どれにしても、名作ってキャラクラターの成長が絶対ありますね。

 

 マーロウは私立探偵なので、警部補たちに時にバカにされます。

しかしそれ以外に何ができるというんです?私は依頼を受けて仕事をしています。そして生活するために、自分に差し出せるだけのものを差し出している。神から与えられた少しばかりのガッツと頭脳、依頼人を護るためにはこづき回されることもいとわない胆力、売り物といえばそれくらいです。

  え、ちょっと待って「神から与えられた少しばかりのガッツと頭脳」って語感良すぎないですか?

 私はときにこの言葉を定型文として使い出すかも知れない。「神から与えられた少しばかりの~と~」みたいに。もはや文法として使い出すかも知れない。

 

 マーロウの「そして生活するために、自分に差し出せるだけのものを差し出している。」はすごくかっこいいなぁと思います。

 私は一体どれだけ生活のために差し出しているんだろうな?と思うし、差し出せるものが、それが対価になるようなものとしてあるのだろうか?と思う。

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 タイトル「大いなる眠り」というのは「死」のことで、死んでしまえば金もなにも関係ないカオスでっせ、って話なんですが、だからこそ生きてる間は色んなしがらみなり温情なりでこんがらがるものなんだろうな、と思いました。

 

 超大金持ちの家に生まれてしまったばっかりに、たいへんふしだらに育ってしまった(育つしかなかった)姉妹の悲劇が本作では描かれています。

 

 私ミステリーってあんまり好きじゃないなぁと思ってたんですが(特に海外のやつ)、このシリーズは日本でいう「金田一少年の事件簿」感があって、ちゃんと探偵が探偵の役割である脇役に主役ながら徹してる気がするんです。

 

 謎解きの楽しみを追うというよりも、人間ドラマだと思います。金があって、欲しいものが常に手に入って、どこにでも行けるのに、それゆえ自分で自分を壊すしかなかった姉妹がとても人間臭い。