深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】劇場~永田という劇場で彼氏を支える彼女の役を演じ続けた紗希の物語~

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《内容》

高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、その劇団は上演ごとに酷評され、解散状態となっていた。ある日、永田は街で、偶然、女優になる夢を抱き上京し、服飾の大学に通っている沙希(松岡)と出会う。常に演劇のことだけを考え、生きることがひどく不器用な永田を、沙希は「よく生きてこれたね」と笑い、いつしか二人は恋に落ちる。沙希は「一番安全な場所だよ」と自宅に永田を迎え一緒に暮らし始める。沙希は永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女に感じたことのない安らぎを覚えるが、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していく―。夢を叶えることが、君を幸せにすることだと思って。

 

重っ・・・

太宰といい又吉といいクズかぁ・・・と思いつつ、これが人間、これが文学・・・とか思ってしまいますね。この2人を連続で見ると、確かに村上春樹の恋愛は芥川賞って感じじゃないよなぁ、と思いました。

 

夢は不安定な場所から生まれる

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 「ここが一番安全な場所だよ」が、強烈なこの作品。

 主人公はアマチュア劇団の脚本家兼演出家・永田。なかなか評価されない日々の中で、女優を目指して上京してきた沙希と出会う。

 この出会いは、永田が惹かれた猿のお面に沙希も足を止めたことから。そこから永田は去っていく沙希を追いかけ

 冷たいものでも一緒に飲みたいけど、僕もお金がないからあきらめます。

 とか言い出す。

まず「ぼくも」ってなんでやねん。

 なんで突然知らん人にお金ないとか思われなきゃいけないんだよ。(沙希は若そうだけどおしゃれだしかわいい服装をしている)  

 私なら意味わからんしカチンときて「そうですね、お互い頑張りましょうね」とか言って去るのに、沙希は「お金貸してほしいんですか?体調悪いんですか?」とやたら親切である。

 

 しかもカフェに行ったら自分おごられる立場なのに

アイスコーヒーふたつ (`・ω・´)キリッ」とか勝手に人の注文まで決めつけるのであった。(おめえは黙ってろよと私は思ったが、そう思うようなら行ってないんだよな・・・と冷静に考えた)

 だが沙希はそんな永田を明るく笑い飛ばしアイスティーを注文しなおした。

 

 この出会いから分かるのは、沙希は人に合わせるのが得意だし、永田は人の都合とか事情は考慮しない人間ということである。

 

 人から否定されることに耐えられない永田は、ひたすら自分に合わせてくれる紗希に安心を見出し、彼女のいる場所を安全な避難場所とした。

 紗希の女優になりたいという夢は永田の成功にすり替わっていった。

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  永田は自分が否定されることだけでなく、紗希が他の演劇をほめることにも耐えられなかった。

 紗希のバイトと親の仕送りで成り立っている生活に自分もお世話になっておいて、紗希が正直に自分がお金を払ってることを友達に告げると「バカにしてんの?」とキレる。

 光熱費だけでも入れてくれないかな?という相談には「なぜ人の家の光熱費を入れるの?」と逃げる。

 紗希の親の仕送りに対して「俺紗希ちゃんのおかん嫌いだわ」と言う。だが、仕送りは食う。(そこまで言うなら食うなよ)

 

 紗希はいつも永田に謝ったし、メールの返信はしないのに深夜に自分が辛い時だけやってきてベッドにもぐりこんでも永田を受け入れた。

 だけど、そんな生活で紗希はしずかに壊れていった。

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  主演の山崎賢人だが、前からうまいと思ってたがやっぱり演技うまいと思う。

ていうか、話し方が又吉に似てて、太宰の映画のように又吉の映画なのでは?と思うくらい、又吉感があった。

 

 タイトル「劇場」は、その名の通りフィクション。

 家賃やら結婚やら現実的なことを言い出す紗希と、フィクションに吞み込まれている永田では同じ場所にはいられない。

 永田が劇場を選ぶためには紗希と別れる必要があったし、紗希を選べば劇場とさよならするしかなかった。

 

 そのことを直感でわかっていたから、一番安全な場所(ノンフィクション)から出て行ったのだ。だが、紗希が壊れるまで自分の安定のために紗希を手放さなかった罪は重いよね。まあ、こういうとこが人間臭さというか文学というか、人は正論だけじゃいきれないよねってことなんだけど、紗希が最後まで永田を責めないのがさらに腹立った。

 

 紗希は最後、東京に長くいられた理由として永田との関係を否定しなかったし、最後永田の舞台を見ながら「ごめんね…」と涙するのだが、なんで謝るんだろうな?と思った。

 自分がそこに一緒にいられなくて’ごめん’?そこまでついていけなくて’ごめん’?支えてあげられなくて’ごめん’?

 

 最後の最後で共依存的な恋愛だったことが分かる。紗希は紗希で、東京で演劇を頑張ってる彼氏を支える彼女、という役を演じていたのね。その役を降りて「ごめん」・・・あくまで二人の恋はなるほど劇場で行われていたわけだ。

 そりゃ確かに永田はクズになるしかないね?永田がひどい男なほど、恋人を支える彼女にスポットライトは当たるし観客の好感度も上がり続けるのだから。

劇場

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 そう考えると、東京で女優になるという紗希の夢は永田によって叶えられたため、永田を憎むこともなく、青森へ帰った・・というのも納得できる。

 なんか、実は涙をこらえて・・・とか永田のために・・・とかそういう裏読みが紗希という女性からは感じられなかった。

 たぶん紗希はそんな意識はなく、純粋に永田が好きなんだと思ってると思うけど、人って自分が一番かわいいし自分に一番興味があるから、ナチュラルに自分がスポットライト浴びれる人を選ぶんだよ。他人からこう見えたい私が誰にでもある。(クズだけど才能がある彼氏を支える私、彼氏に溺愛される私、彼氏をうまく教育してる私・・・とかさ)

火花 (文春文庫)

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  火花のときも思ったけど、クズほど魅力的に見えるのが、さすが又吉…さすが文学…(ナチュラルに上からですみません…尊敬してます)と思うのでした。