深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】ユリゴコロ~あなたには心の拠り所がありますか?~

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《内容》

2011年に発売され、大藪春彦賞受賞など、数々の国内ミステリーランキングを賑わせた沼田まほかるの同名小説が映画化。カフェを営む亮介の日常はある日突然崩れ去った。男手ひとつで育ててくれた父親が余命わずかと診断され、結婚を控えていた千絵はこつ然と姿を消してしまったのだ。そんな中、実家の押し入れで「ユリゴコロ」と書かれたノートに巡り会う。ノートに書かれていたのは、美紗子と名乗る殺人者の手記だった…。

 

  賛否両論が激しいイメージの本作。

 タイトル「ユリゴコロ」は「拠り所」から。心の拠り所が死であった少女が大人になって愛を知る。だけど、その過程は許されない道であった・・・。主人公はその事実を知った息子です。

 

持って生まれたものと、手に入れたもの

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初めての場所に行くのは苦痛でした。
目に見えないたくさんの棘が私を突き刺してくるのです。
いつも恐怖でした。
それは私にユリゴコロがないせいだと思いました。
私は私のユリゴコロを必死で探しました。 

 

  吉高由里子演じる美紗子は、小さいころ話すことができず、母親に付き添われて精神科を受診する。そこで医師からは「この子には心の拠り所が必要だ」という言葉を聞き間違えて自分にはユリゴコロがないのだと認識する。

 いつも見えない恐怖と戦っていた美紗子が必死になって見つけた「ユリゴコロ」は「死」でした。はじめは昆虫からでしたが、友達の女の子がおぼれても助けず、しまいには少年を助けるフリをして殺しました。

 そうやって美紗子は死をユリゴコロに生きていきました。

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  そんなある夜、お金に困った美紗子は松山ケンイチ演じる洋介を道端で誘います。しかし、ただ美紗子に食事と5千円を渡しただけの洋介でした。洋介はその後もしばらくたつとお金と食事を美紗子に提供しました。

 不思議な逢瀬が続いたあと、美紗子に妊娠が発覚しました。もちろん洋介とは何もありません。娼婦の美紗子は誰の子供かわからず流産を望みましたが、洋介は過去の罪を乗り越えるために、その赤子と美紗子と家族になることを決めました。

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 時は流れ、その当時の赤子、松坂桃李演じる亮介は父の余命が幾ばくも無いことを知る。それと同時に婚約者も失踪し、失望の最中にいた亮介が見つけたのは母親らしき人物が書き残した殺人の告白であった。

 時折感じる自らの気性の荒さに「自分は殺人犯の血を引いているのだ」という確証がプラスされ、婚約者を攫った人物を殺す決意を固める。

 しかし、そんな亮介の元に一人の人物が現れる・・・。

 

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一体どうすればよかったのですか?
あなたに出会うためには
あなたを地獄に落とすしかなかったのだとしたら
それも運命ですか? 

 

  美紗子がなぜ幼いころから拠り所がないと判断されたのか理由は書かれていません。母親もとい家族とのつながりも書かれていません。

 この映画でわかることは、美紗子が常に恐怖におびえながら、その恐怖の対処法としてユリゴコロを自ら探して手に入れたということです。

 そしてそれを手に入れるために

私があなたを地獄に落とした
でも私がそうしたから
あなたは私のあなたになった 

  美紗子は永遠に放浪することとなるのでした。

 おそらく、美紗子にとって安心は何かの成果や交換品としてしかやってこなかったのだと思います。肉体の代わりにお金が手に入る。虫を殺すことで安心が手に入る。人を殺すことでもっと大きな安心が手に入る。

 

 そうやって自分の何かを引きちぎって明け渡さなければ得られないものだった「ユリゴコロ」は、洋介の食事とお金をただ提供する、という行為で変化します。自分が何もしなくても、自分を心配し守ってくれる存在に初めて出会ったのでしょう。

 だけど、その人が自分の前に現れたのは自分が彼を苦しめたからだったのです。

ユリゴコロ

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  • 発売日: 2018/04/04
  • メディア: Prime Video
 

  ほんと、沼田まほかるさんの作品は男女の関係を濃密に描きます。

彼女がその名を知らない鳥たち

彼女がその名を知らない鳥たち

  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: Prime Video
 

「彼女がその名を知らない鳥たち」の記事を読む。

ユリゴコロ (双葉文庫)

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  • 作者:沼田 まほかる
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2014/01/09
  • メディア: 文庫
 

  心の拠り所がない苦しみや恐怖って、物心ついたときにはすでに持っていた人間やそんなことを考えもしなかった人間からしたら全く想像ができないことだと思います。人は同じように見えて無個性に見えて、まったく違う。その奥深さを沼田まほかるさんの作品でものすごく実感します。