《内容》
母娘のふたり家族、肉子ちゃんとキクコ。食いしん坊で能天気な肉子ちゃんは、情にあつくて惚れっぽいから、すぐ男にだまされる。小学5年生、多感なお年頃のキクコは、そんな母のことが最近ちょっと恥ずかしい。共通点なし、漁港の船に住む母娘の秘密が明らかになるとき、ふたりに最高の奇跡が訪れる―。
原作は西加奈子さん。
「サラバ!」が直木賞を取ったときから西さんが気になっていたのですが、いまだ読んでいなくて、これが西さんの作品に触れる初めての物語になりました。
幸せとは自分で掴むもの
生きてる限り恥かくんだ
怖がっちゃなんねて
子供らしくすれとは言わねえ
子供らしさなんてのは大人がこしらえた幻想だすけの
みんなそれぞれいればいいんだって
ただな
それと同じように
ちゃんとした大人なんていねえんだ
なすけ お前さんがいくら頑張っていい大人になろうとしても
つれえ思いや恥ずかしい思いはぜってえにぜってえにすることになるなすけの
そのときのために備えておくんだ
子供のうちにいーっぺえ恥かいて迷惑かけて怒られたりいちいち傷ついたりして
そんでまた生きていくんだて
主人公は小学五年生のキクコ。食いしん坊で体も大きくてお人よしな肉子ちゃんとキクコは親子だけど、二人はまったく似ていない。
肉子ちゃんは男運がなく、借金を背負わされた挙句逃げられたり、結婚詐欺にあったりしてそのたびに住む場所を変えた。
キクコは肉子ちゃんの恋模様で学校が変わるけど、人に騙されてしまうけどやさしくて面白い肉子ちゃんが大好きだった。
だが、小学五年生にもなりサリンジャーを読むほどに多感になったキクコは、肉子ちゃんが本当の母親ではないことや、また転校するかもしれないことを考えてクラスメイトに一線を引いてしまうことなど、悩みを抱え始めていた。
ライ麦畑でつかまえて/サリンジャーの記事を読む。
実はキクコは肉子ちゃんが一緒に暮らしていた友達が産んだ子供であった。自分は望まれて生まれてきたのではないと思うキクコに肉子ちゃんはそれは違うのだと、涙ながらに伝える。
あの子精いっぱいやったんよ
捨てたんやない
しんどかったんよ
若かったし ほんまに
んでな
今もずーっとずーっと思ってるって言ってたんやから
正直、肉子ちゃんがお人よしでなければこんな言葉は刺さらない。納得できない。本当に大切ならなんで捨てるの?しんどかったら捨てていいの?しんどいのはお母さんだけなの?ということもできたでしょう。
だけど、それでもこの言葉でキクコが黙ったのは、今が幸せだからなんだと思います。言葉よりも一生懸命キクコが傷つかないように話す肉子ちゃんの動きは、背中を向けていても想像できたはず。
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ちゃんとした大人はいない。だけど、大切なのはちゃんとすることではなくて、困っている人やしんどい思いをしている人を正論で追い詰めるのではなく許していくことなんじゃないかな、と思いました。