深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】トルーマン・カポーティ 真実のテープ~誰もが一度は会いたいと願うが、一度会えば二度とは会いたくない男~

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《内容》

イーブス・バーノー監督のデビュー作。『ティファニーで朝食を』『冷血』など多くの名作を残した20世紀を代表する文豪トルーマン・カポーティ。なぜ彼は、こんなにも多くの人を傷つけるような本を執筆したのだろうか?死後36年を経て、彼の波乱に満ちた人生を濃密に網羅し、「未完の絶筆」とされている問題作『叶えられた祈り』をめぐるミステリーに迫る珠玉の文芸ドキュメンタリーがここに完成した。

 

 多くの人を救ったり社会に影響を与えた作品の作家が"いい人"だとは限らない。読者の多くは作品の言葉を作家の言葉、作家の思想と感じ「こんなに私の苦しみを分かってくれるなんて、この人はやさしいに違いない」と思うのではないだろうか。

 

わたしの父がどんな人物かはともかく、現実生活で彼があなた方のつかまえ屋になることはけっしてないだろう。彼の書いたものから、彼の作品から、得られるものを得てほしい。けれども作者自身は、たとえ子どもがあの恐ろしい崖に近づきすぎても、どこからともなく現れて彼らをつかまえようとはしない。 

(「我が父サリンジャー」より) 

 

 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の主人公ホールデンは麦畑で無邪気に遊んでる子供たちが崖から落ちないようにキャッチする人になりたい、と作品の中で語り、それを生み出したのはサリンジャーだったが、サリンジャーは自らの人生で自分の子供たちさえキャッチしなかったのだ。

 本作は誰もが知っていると言っても過言ではない「ティファニーで朝食を」の作者・カポーティのドキュメンタリーである。

 彼の作品を読んだ人は多かれ少なかれ彼の"不安定さ"を感じ取っていたのではないかと思うのだけど、それが彼を天才にしそれが彼を孤独にしたかは定かではない。わかるのは、彼が常に"不満"を抱えて生きていたということだけである。

 

芸術の燃料は怒りであり不満である

 映画の「ティファニーで朝食を」だけ見てるなら確かにカポーティはスタイリッシュで"セレブ"な作家かもしれない。

 

 だけど、カポーティの小説ははっきり言って暗い。暗いし愚痴っぽいしとても感動するような作品ではない。後年のカポーティはセレブの仲間入りをしたが、「叶えられた祈り」でセレブの秘密を暴露し社交界を追い出され孤独な日々を過ごした・・・と言われているが、カポーティがセレブ!!??というのが正直感じたことでした。

 

 それくらい小説が内向的なので、イメージで言うとサリンジャーが後年家に籠って一人っきりで商業用ではない小説を書き続けたみたいに、村上春樹が海外でひっそりと執筆活動を続けてるみたいに、それくらい自分の時間が必要な人に感じていたのだ。

 

文化という意味において
重要な社会階級はアメリカには1つしかない
いわゆるNYの"ハイソサエティ"だ

 

アイダホでどれほど有名な金持ちだろうが関係ない
NYで無名なら ただの人だ

 

  実際の殺人事件の犯人にインタビューを行って作成したノンフィクション・ノベル「冷血」がNYで大きな評価を得たことからカポーティはセレブの一員になるのだが、その一方で精神も不安定になっていた。

 

同じ家で生まれた。一方は裏口から、もう一方は表玄関から出た。

 

 カポーティは犯人の一人、ペリーについてこのような言葉を残している。カポーティがよく描く「ドッペルゲンガー」の存在。カポーティの影の部分を背負ったペリーと刑務所の中で静かに対話する一方で社交界というキラキラした世界で、カポーティはペリーたちとの会話をネタにするのだ。

 ここの描写は映画「カポーティ」で描かれている。

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  カポーティのドッペルゲンガーに関しては「夜の樹」の作品でたくさん出てくるのだが、これらの主人公が影と出会い狂っていくようにカポーティもまたペリーという影と出会い失い狂っていったのではないかと思う。

 

トルーマンが生涯手放さなかったもの

それは

スックが作ったクッキーだ

 

干からびた
ジンジャーブレッドクッキー

 

どこへ行くにも持ち歩いていた
子供の頃の思い出がそれほど大切だったんだ

 

 カポーティの作品の登場人物の多くは過去に縛られている。逃げても突然別の姿で現れたり電話をかけてきたりして新しい人生を歩むことを許してくれない。

 

 カポーティもまたセレブになろうが過去への郷愁に囚われていたのではなかろうか。幼少期、自分を閉じ込めた母親への怒り悲しみ、閉じ込められたことへの恐怖。カポーティの中で"忘れるな"と迫ってくる影とお守りのクッキーがカポーティという人間だったように思う。

 

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 カポーティ好きでなければ観る人いないだろって思う作品だけど、それだけカポーティが死してなお人々の関心を惹き続けている証拠だろう。私はまんまと叶えられた祈りを買った。