深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

ケルトを巡る旅 -神話と伝説の地/河合 隼雄〜ままならない自然の力が生き抜く強さの糧となる〜

スポンサーリンク

《内容》

キリスト教以前のヨーロッパに存在したケルト文化。ケルト人は文字を持たず、歴史を書き記すこともなかった。しかしアイルランドやイギリスの文化には、その影響が今なお色濃く残っている。自然と共に生きたケルト人。自然から切り離された現代文明に行きづまりを感じる西洋人もまた、ケルト文化に再び目を向け始めた。妖精伝説や昔話が息づくケルトの地を、心理学者・河合隼雄が巡って感じたこととは―。

 

ケルト音楽が好きなんですが、確かにケルティクって終わりがないんですよね。似たようなフレーズが延々と続く。だけどそれが全然飽きない。永遠にその音楽に合わせて踊ることができて、疲れて止まる時、音楽も終わる、そんな感じがするんです。

 

日本で有名なケルト音楽↓

ケルティック・ウーマン

ケルティック・ウーマン

Amazon

 

人は自然無しでは生きられない

 

「説明不可能」とは、言い換えれば「自然」ということになる。アイルランドでは何も決まっていない。極言すれば、それは「自然」だとも言えるのではないか。

 

 たとえば、現地の音楽は、始まりや終わりがどこにあるのかわからない。音楽と合わせて興じられる踊りにも終わりがない。音楽も踊る人もグルグル回り、適当に「ここでやめよう」と言って終わるようになっている。何も決まっていないのである。

 

 著者の河合隼雄さんは臨床心理学者で心理療法家である。様々な人たちと触れ合う中で、ノイローゼについて考え始めた。ノイローゼは意識の力ではコントロールできない。フロイトやユングは人間が意識していないところ(無意識)に不思議な心の動きがあり、その力に人間の理性が影響されていると主張したことから河合先生もそういった悩みを抱えた人に会い、ともに考えていくうちに「無意識の世界」について知る必要があると感じた。

 

 「無意識の世界」は神話や昔話の中に潜んでいる。なぜならこういう「物語」は自分の心の中で起きたことと、実際に起きたことが混合しているからだ。とても怖かった、という感覚が「お化けが出た」という表現になり、それが一つの物語となっていく。物語を読むということは、ある人の「無意識の世界」にアクセスすると言えるだろう。

 

人々の様々な意識や現実、思いの間に、いろいろな「おはなし」があって、それがうまく「場所」などと結びついているからこそ、そこに住む人々が受け入れやすい形の「伝説」が存在、継承されていく。伝説にはそういう意味があるのだ。

 そうすると、「そこにずっと住んでいる」ことに、土台ができる。意味づけができてくる。ところが、現代人はそういった意味づけを失っているから、大きな不安に見舞われてしまうのである。

 

 医学の発展は人間の寿命を延ばし、ペストや天然痘などの不治の病は人間の力で克服できるという証明となった。それゆえに人は努力すればいい結果を生み出すのだと信じられてきた。だが、実際は努力したところでうまくいかないことも助けられない命があるのも現実である。

 ゆえにあまりに科学技術にばかり傾倒してはこのどうにもならなかった時に自分の土台がぐらぐらと揺れて不安な気持ちに押しつぶされてしまうのだ。

 近代化が進み科学技術が発展したからこそ今一度科学とは真反対の「ままならない自然」の力が生き抜く強さの糧となる。