《内容》
大人になれない僕たちは、空で戦うことしかできないのだ――永遠の生命を持つ子供たち「キルドレ」が戦争を請負う社会。戦闘機乗りのカンナミは、日々指令を受け空へ出勤し、夜は同僚たちと歓楽街へ出かける。生死とは、そして自我とは何かを問う森博嗣渾身の傑作シリーズ!
確か映画を見たのは高校生だったと思う。
映画館でポスターに引き込まれて事前情報もなしに友達と見たんだけど、ちんぷんかんぷんで、プリクラに「意味わからん」みたいなことを書いたことを記憶している。
でも意味わからんけど何か深そうなエッセンスと「スカイ・クロラ」という言葉だけはしっかりと私に染みついた。
何のために生きるのか
靴の紐が結べなくたって、生きていける。
唯一の問題は、何のために生きるのか、ということ。
僕たちは、神に祈るか、それとも殺し合いをするか、そのどちらかを選択しなければならない。それがルールだった。僕は戦うことを選び、飛ぶことを選んだ。何故なら、神に祈ったところで、きっといつかは精神が崩壊してしまう、祈ることで、生と死の秘密の関係に近づけるとは思えない、そう思ったからだ。生きていることを確かめたかったら、死と比較するしかない、そう思ったからだ。
この物語の主人公ユーヒチはキルドレという遺伝子制御剤の開発途中で生まれた子供であり、キルドレは歳を取らずに永遠に生き続ける。戦死しない限り死なない子供、それがユーヒチと彼の上司、草薙水素だった。
まるで子供のようだから、普通の人はすぐ彼らがキルドレであると分かる。子供にしては落ち着いていて子供にしては戦闘能力が高いから。ユーヒチは唐突に左遷された理由が前のパイロット・クリタが死んだことによる戦闘員補給だと分かってはいるが、クリタが死んだ理由を知りたかった。
「貴方になったから」彼女は下を向いたままだ。「もう一度、再生して、新しい記憶を植えつけて、貴方が作られたのよ。貴方はクリタさんの生まれ替わり」
「どうして、みんなそれに気づかない?」僕は冷静だった。
「そのくらい、変えられるもの。ちょっとした変化で、人の表面なんて変わってしまう。でも、中身はそっくり同じ。そうしないと、クリタさんが持っていたノウハウが失われるから。パイロットとしての、兵器としての性能が失われるから」
「私」とは何なのか。誰もが私は私をオリジナルな一人の人間だと思っている。だけど、それは”本当”にそうなのか?
この物語はチャプターごとにサリンジャーの小説の一節を引用しているのだが、一番最初のプロローグの引用「テディ」が格となっていると思う。輪廻転生を擬人化したのがキルドレなのだ。
輪廻転生するはずのキルドレが戦死という形だけで死ぬというのは、死を恐れる人間立ちの願望に過ぎず、実際は死ぬのではなく死ぬというパフォーマンス(赤い血が流れ心臓が止まる)の先に生まれ替わりがあり、生まれ替わった時点では過去の記憶がないというだけのことなのだ。
深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ。要注意せよ、という感じのお話でした。映画を見てちんぷんかんだったあの頃の方が幸せだったと思う。知るということ、考えるということの代償は永遠に晴れない空の下で生きることのような気がする。