≪内容≫
長崎県の港町で生まれた横道世之介(よこみちよのすけ)は、大学進学のために状況したばかりの18歳。
嫌味のない図々しさを持ち、頼み事を断りきれないお人好しの世之介は、周囲の人たちを惹きつける。お嬢様育ちのガールフレンド・与謝野祥子をはじめ、入学式で出会った倉持一平、パーティガールの片瀬千春、女性に興味を持てない同級生の加藤雄介など、世之介と彼に関わった人たちとは1987年の青春時代を過ごす。彼のいなくなった16年後、愛しい日々と優しい記憶の数々が鮮やかにそれぞれの心に響きだす---。
これ、観た人より観てない人の気持ちが分かるような感覚でした。
160分という長さに加えて、横道世之介という名前とジャケ写から、少し変わった大学生のハートフルストーリーね、うん、分かった。
と自己完結してしまう人が多いのでは?と思う。結論から言うとかなりいい映画だったけど、20代前半とか、そこまで映画好きでもなかったらどうだったろう?とは思う。 この映画を楽しめたことこそ、自らの成長に感じました。そんな一作。
忘れなければ死なないということ
高良健吾といえば、「白夜行」「ソラニン」「きみはいい子」「悼む人」「ノルウェイの森」「蟹工船」「おにいちゃんのハナビ」など、どちらかというとアンダーグラウンドな役どころが多い印象で、うーん・・・言い方が良くないけれど死ぬ役(もしくは誰かが死ぬ)が多い。
んで、これは高良健吾が引き寄せてるのか分からないけど、今回もそうなってしまうのだ。
この映画はそんな世之介を思い出している人たちによる世之介の人生を描いているのだと思う。だから、どのシーンも世之介の主観ではなく、他人が作り出した世之介のたぶんこうであった人生。
全く興味のないサンバサークルに入ったり、好きじゃなかったお嬢様を好きになったり、出会ってすぐに誰とでも友達になる。それは言葉上のトモダチではなく、真剣に向き合う友達だ。
友達がお金で困っていたら助けるし、同性愛者だとカミングアウトされても動じることもない。難民の子どもを助けたり、怪しい女性のバイトで弟にもなりきる。
世之介と出会った人は彼のことを忘れない。
しかも彼の笑顔や、彼がしてくれたこと、心に残っていること、そういう楽しくて美しい記憶だけが残っているから、世之介は死んでも美しい世界で生き続ける。
こういう人をありのまま受け入れられる人間というものを、映像として見られるのはものすごく大きなことのように思う。
実際の人間は、皆多かれ少なかれ、年齢や生まれや性別や国や、とにかく色んな理由を見つけて「私はもう年だから変われないけどあんたは変われる」とか言って人を自分が飲み込みやすい形に変えようとする人がほとんど。
ならば、飲み込まなくていいから関わんなと思うんだけど、そういう人は大体自分を心の広い人間と思い込んでいるから、とにかく飲み込まないと自分のアイデンティティーが脅かされちゃう。でも、ほんとはそんな器じゃないから他人に変わってもらうしかないのだ。
でも私はそういう感情は防衛本能のような気がして、まあまあ正常の範囲内だとも思っています。
だってさ、ありのままの他人を受け入れるなんてものすっごいリスクあるじゃないですか。その人が本当はどんな人なのかとか、本心とか、嘘とか、そういう見えないものを信じるのって。
世之介みたいな人は、なんとなく人の持ってる邪気というか、悪いものを吸いこんでしまう力があるのかな?と思う。
たとえば、
そういう力が高良健吾にもあるのかな?とか思って観てました。それにしても吉田修一さんのすごさ、作品に出会うたびに尊敬し直す。これが、「忘れなければ記憶の中でずっと生き続ける」をテーマにしてるなら天晴れというか上手すぎる天才じゃないかと思ってしょうがない。