
≪内容≫
タクシー運転手のトラビスは、大統領候補の選挙運動員ベッツィに心を惹かれる。だが、デートは失敗。そんな折、トラビスは13歳の売春婦、アイリスと出会い、足を洗うよう説得する。トラビスは使命を感じ、アイリスのいる売春宿に向かったのだが…。
ニューヨークの夜を走る1人のタクシードライバーを主人公に、現代都市に潜む狂気と混乱を描く。ベトナム帰りの青年トラヴィスをロバート・デ・ニーロが演じ、世界の不浄さへのいらだちを見事に表現した。トラビスの強烈な個性は、70年代を代表する屈折したヒーロー像となった。
この映画70年代が染みついている人はものすっごく感慨深いんじゃないかなぁ・・・と思う。うらやましい。どうしてこんなに科学が発展しても過去には戻れないんだろう。まったく関与できなくてもいいからあの景色、匂い、温度、そういうものを肌で感じられたら、今の何十倍も何百倍も楽しめるだろうに・・・!
孤独から逃れる方法
主人公はベトナム戦争からの帰還兵・トラヴィス。不眠症で、眠るためにポルノ映画に通ったりしてみるもののまったく改善されない。まんじりとも眠くならないのでタクシーの運転手になり、夜の街を走る。
夜の街にはいろんなものが溢れてる。肌を露出した立ちんぼや、肩を寄せ合うカップル、酒でふらつく集団に、痴情のもつれのようなおじさんと少女。
誰もが誰かと一緒にいたり、誰かを待っていたりしてるのに、自分は客を乗せていても一人だ、という孤独感がトラヴィスにはあった。
"眠れない"というのはマシニストの主人公もそうだったのですが、明けない夜の中に閉じ込められてしまったみたいで、これは結構苦しいですよね。眠れないというのは。
主人公・トラヴィスの不眠の原因は戦争によるものだとwikiに書かれていて、内容もwikiを見れば「そうなんだー」ってわかるんですが、逆に言うとそれを見ないとわからない点も多い印象でした。
なので、あくまで私の妄想論ですが、26歳の若さですでに名誉除隊となっているというところで何かわけがありそうだなーと思うんですがここら辺はよくわからず・・・。
ただ、帰還したトラヴィスが街に溶け込めていない様子はすごく伝わってきます。トラヴィスは何かをしたいんだけど、何をしていいのかわからない、という状態のようで、おそらく「自分で選択する」ということができない。
これは若いうちから軍隊に入ったお土産かもしれないんですが、予告された殺人の記録の中の男の子が軍隊で習ったひげのそり方でしかひげをそれなくなったように、命令されそれに従順でいることが良しとされていた世界から、いきなり自由意志を持って己の人生を切り開け!と現実世界にほっぽりだされても無茶なのです。
戦場という世界と日常という世界は道理も何も異なっています。
トラヴィスの培ってきた常識はこの世界では通じず、すべきことがわからない毎日。そんな中に飛び込んできたのが「悪」の匂いに包まれた12歳の少女でした。
トラヴィスの目的は大統領候補の選挙運動員ベッツィから、売春婦のアイリスに変わります。
おそらくですが、「大統領候補の選挙運動員」だとか「売春婦」だとか、目に見えた肩書でしか人を認識できなかったのではないでしょうか。
ベトナム戦争におけるアメリカの雰囲気がよく分からないのだけど、アメリカの誇りである海兵隊に入ったはずが、アメリカ国民から非道な行いであると非難されたとするならば、トラヴィスは自分を認めてもらうために何かをする必要があった。
でもその「何か」が曖昧なために標的が、大統領という頂点か売春婦という最下層かの極論になってしまう。なぜならその間の層を標的にしても誰にも気付かれないかもしれないから。
複雑なのはベトナム戦争開始時(というか戦争開始時はどこの国でも)相手国は"悪"である、という認識を持って戦っていたんだと思うのですが、それがテレビを通じて「いやいやそこまでするなんてアメリカやりすぎじゃない?」と自国民から不意打ちをくらう。
そして今回、アイリスを救うためにたくさんの麻薬中毒者や売人を撃ち殺したトラヴィスは"悪"を倒したヒーローともてはやされます。
そのときの時代や人の意識によって、メディアによって自分の立ち位置が変わってしまうなら、本当の"悪"なんて誰かが勝手に作りあげているだけではないか、と混乱してしまう。最後まで見てやっとタクシードライバー仲間がいう「人間なんてなるようにしかならんよ」というのが効いてくるのだ。
鑑賞後はニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」が脳内でずっと流れてた。