深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】紙の月~貧しい人のために他人の金で寄付して喜ぶ愚行は見抜かれてる~

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≪内容≫

バブル崩壊直後の1994年。夫と二人暮らしの主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事をしている。
細やかな気配りや丁寧な仕事ぶりによって顧客からの信頼を得て、上司からの評価も高い。
何不自由のない生活を送っているように見えた梨花だったが、自分への関心が薄い夫との間には、空虚感が漂いはじめていた。そんなある日、梨花は年下の大学生、光太と出会う。光太と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまう梨花。最初はたった1万円を借りただけだったが、その日から彼女の金銭感覚と日常が少しずつ歪み出し、暴走を始める。

 

お金の倫理観っていつどこで誰から教えてもらうんだろうなぁ。主人公のお金に対する考えはウシジマくんの竹本を彷彿させた。

 

金で自由は買えない

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  結婚しているが子宝に恵まれない主婦・梅澤梨花は銀行のパートをしていたが外回りでの大口契約確保が認められ契約社員へと昇進する。梨花は自らの力で一歩先に進めたことを喜び自分と夫に昇進祝いで時計を購入するが、内心面白くない夫は梨花が買った時計よりも高級な時計を後日プレゼントする。

 

 梨花は家庭では決して認めてもらえない自分が仕事では認めてもらえることに活力を見出し積極的に仕事に取り組むが、その縁で学費という借金に苦しむ苦学生に出会う。夫の前では与えられる人間にしかなれなかった梨花だったが、その青年の前では自分が与える人間になれた。例えその施しが他人の金であっても、梨花にとって他人の金は偽物だからどうなったって良かったのであった。

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  では、その梨花の倫理観はどこから来たのか、というのがこの映画にはきちんと分かりやすく描かれていた。彼女が通っていたキリスト系の学校では、「愛の子供プログラムという寄付を学ぶ授業があった。シスターは無理をしない程度でいい、無理強いではないが、もし寄付が行われれば発展途上国の子供たちは喜ぶだろうと生徒たちに語りかける。

 梨花は欠かさずに寄付を行った。相手からくる手紙が嬉しかった。しかし、クラスの生徒達は時が経つと寄付のことは忘れて自分たちの生活に戻っていってしまった。寄付が少なくなったことに危機感を覚えた梨花は父の財布からお金を盗み寄付箱に5万円を投入するのだった。

シ:初めにラッパを吹き鳴らすなと話したはずです。

 

梨:ひけらかしたんじゃありません。
私のクラスは最初のころは皆の寄付で5万円集まっていました。
でも時間がたつと皆寄付をやめてしまったんです。

  シスターは梨花の行いに憤慨する。

 しかし梨花には梨花の言い分があったのだ。

 

梨:なぜですか?
あの子たちは喜びます。

 

シ:そのためにはどんな手段も許されると思いますか?

 

梨:でもシスターは受けるより与える方が幸いだって仰いました。
だから私、あの子たちが喜んでると思うと幸せなんです。

 

  たぶん意識的には善意なんでしょうけど、これって自分が幸せを感じるために発展途上国の子供を利用して、その利用金は他人の金で賄ってると言ってもあながち外れてないと思うんですよね。心の奥底から沸き上がる想いが自分を動かすのと、与える方が幸せだと言う人の教えによって与える側に行く、というのは行為自体は他人から見れば「寄付」という一つの記号になるが、そこまでの過程になる「倫理」が抜けた梨花の行為は端的に言って人を見下す行為と変わりない。そういう施しってした人間は気持ちいいかもしれないけど、された人間に生まれるのは一瞬の感謝と積年の恨みです。情けは人の為ならず。

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  梨花の横領に気付いた隅より子は、彼女に何度も警告するが彼女は止まらずにもう戻れないところまで来てしまう。追いつめられた梨花は隅に「自分よりみじめな人間になったから優しくするんですか?」と問う。

 隅は自分をみじめだと思っているのかと逆に梨花に問いかける。梨花は今まで誰にも言えなかった孤独を隅に打ち明け、横領した金で得た朝帰りに自由を感じたと話す。まだ日が昇らない早朝の空にうっすら浮かでいる白い月に手を伸ばして指を動かすとその月が消しゴムで消したみたいに消えていった。

 なぜならそれは偽物の月だから。と梨花は言う。

 

確かに偽物かもねお金なんて
ただの紙だもん
でもだから
お金じゃ自由にはなれない

 

 紙の月、というのは他人の金で成り立った偽物の世界、ってことなんでしょうね。恐らくですが、梨花はそこまでイイヤツじゃないんですよ。謙虚さより自己顕示欲が上回っていて、そのことを自覚できる客観視もない。

 だからシスターが「ラッパを吹き鳴らすな」と言ったことが分からないのです。梨花がひけらかしたのではなくても、他人がそう感じればそれは確実に一つの世界として存在する。梨花の言うクラス全員分のための行為の世界と、シスターの言う謙虚さを欠いた行為の世界の二つが。自分が見てる世界と他人が見てる世界の二つが常に在るのです。

 

 でも環境が梨花にいい子であることを求め、求められることに喜びを感じる梨花はどんどんいい子になっていき、他人はますます彼女をちやほや扱う。だって他人って上辺でしか見ないから。そういう描写が銀行の中で行われています。

 梨花と対する隅より子は仕事はできるが口うるさいお局的な役回りで可愛げのある梨花と比較されるが、隅は梨花のずる賢さを見抜いているし、若手の大島優子演じる相川は梨花に自分の愚痴を話したりフレンドリーに見えるが実際は梨花のことも誰のこともただの職場の人と思っている。

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  きわめつけは発展途上国に飛んだ梨花がマーケットでりんごを拾って女の子に渡すシーン。梨花の「拾ってあげたよ、はいどうぞ」とでもいうような目を彼女は見つけると、りんごを受け取らずに踵を返して去っていく。

 梨花は女の子を追いかけてりんご売り場にやってきた。その売り場の主人の顔には火傷の傷があり、それは梨花に手紙を送ってきた少年の写真とそっくりだったのだ。梨花は気付いたが主人は気付かない。そのことに苛立ったのか梨花はその場でお金も払わずにりんごにかぶりつく。

 主人は驚くが咎めはしない。なぜなら梨花のこの行為は完全にかまってちゃん行為だし、自分の幼い娘でももっている矜持が彼女にはない空っぽの偽物だと見抜いているからだろう。

紙の月

紙の月

 

 他人に認められなきゃ気が済まなくて、他人の金を使い込みながら「与える側」に立ち続けたいという欲望だけで生きていく。自分が与える側と受ける側、みじめかみじめじゃないかで人を判断してるから結果的にこうなったんじゃないのかな。自分は自分。人は人。