深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】重力ピエロ~深刻なことは深刻に話されるより、明るく話された方が一層深くなる~

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≪内容≫

遺伝子研究をする兄・泉水と、自分がピカソの生まれ変わりだと思っている弟・春。そして、優しい父と美しい母。平穏に、そして陽気に過ごすこの家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった時、事件は始まる。謎の連続放火事件と、火事を予見するような謎の落書き(グラフィティアート)の出現。落書きと遺伝子暗号の奇妙なリンク。春を付け回す謎の美女と、突然街に帰ってきた男。すべての謎が解けたとき、24年前から今へと繋がる家族の"謎"が明らかになる―

 

 伊坂幸太郎作品ってミステリーなんだけど、登場人物が明るいからより一層毒の部分が強いと思うんです。

アヒルと鴨のコインロッカー
 

  コインロッカーは結構トラウマになってる。深刻なことは深刻に話されるより、明るく話された方が一層深くなる。もしくは相手を知るものさしになり得ると思う。

 

遺伝子が決めるもの

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 本作は遺伝子研究をしている理系男子のお兄ちゃんと絵が上手くてイケメンというアーティスティックな弟が街で起きている放火事件を追いかける、という話である。放火が起きた場所には必ず大きな落書きが残されており、弟の春はその落書きを消して回っており兄に逐一報告する。

 

 兄は弟が事件を追うことに対してきとうに付き合っていたが、あるとき一つの可能性に辿り着きDNA鑑定をする。出てきた結果は、数年前に起きた連続強姦事件の犯人と弟のDNAが99.9%一致という内容だった。母の奇妙な事故死と父の病、そして最近になって犯人が戻ってきて少女買春の仕事を始めたという。

 弟は自分の出生の決着をつけるべく最後の目印であるその家に火を放った。

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セックスと暴力?
そんなもん知ってるからもっと面白い話を聞かせてくれってね 

 

  かつてこの街で起きた連続強姦事件の被害者であった二人の母親は数年前に車に乗って出かけたきり帰って来なかった。警察は自殺の可能性も示唆したが父親は断固として自殺はないと言い放った。

 当時30件以上の強姦を起こした犯人は高校生だった。被害に遭い妊娠した母は父と相談の上子供を産むことにした。それが弟の春だった。二人は事件の後も遠くに引っ越すことはなく、街の人たちは春が強姦事件によって生まれた子どもであり母が被害者であることを知っていた。その噂は兄弟が幼いときからつきまとい、特に幼少期から絵の才能が抜きんでていた春にはとても強い風だった。

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  遺伝子で考えるなら、春は強姦魔の遺伝子を受け継いでいるのだ。

 

 面白いのは、春を追いかけるストーカーの夏子さん(吉高由里子)が整形をしても春にも兄の泉水にもバレてしまうことである。遺伝子を拒絶して形を変えても分かる人には分かってしまう、というのが夏子が持つ意味であり、だからこそ春が遺伝子を拒絶しても強姦魔の血を引いていることは変えられない事実なのだと言っているかのようである。

 しかし、夏子が自分を変えようとしたように春も自分で変えられることを変えようとしていたのだった。例えそれで本質的な部分や過去が変えられなくても変えようと動くこと、それが二人に共通するコンプレックスへの対処法なのだ。

 

 遺伝子の研究をしながら、遺伝子が全てではないということに辿り着くのが兄の泉水でありラストは弟と一緒に養蜂をしている。

 蛙の子は蛙と言うけれど、遺伝子が伝えてくることと、生まれてから育ててくれた人が伝えてくることは違う。前者は自分でも分からない部分で後者は自分が選べることが可能である。例え遺伝子が反社会的な部分を子供に伝えても、それは生まれた後で変えることができるんじゃないだろうか?

重力ピエロ

重力ピエロ

 

  世間の重力に引張られて飛べずにいるピエロから、空中に舞う梯子を掴むために笑顔を見つける二人の旅路をぜひ見てみてください。人からうしろ指さされたって相手を恨むより自分が笑っていれば、どんなに世間が重力をかけてきても落ちないの。