深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

鬼/今邑 彩~どんでん返し満載のホラー寄りミステリー~

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《内容》

引きこもっていた息子が、突然元気になった。息子を苛めていた子が、転校するというのだが…「カラス、なぜ鳴く」。かくれんぼが大好きだったみっちゃん。夏休みのある日、鬼になったみっちゃんは、いつまで待っても姿をあらわさなかった。そして、古井戸から…「鬼」。他、言葉にできない不安、ふとした胸騒ぎ、じわじわと迫りくる恐怖など、日常に潜む奇妙な世界を繊細に描く10編。ベスト短編集。

 

 本屋でふと気になったタイトル「赤いべべ着せよ・・・」。

 独特な表紙のデザインからにじみ出る不穏な雰囲気と不安しかないタイトル・・・いや、これ絶対好きなやつ!

と瞬時に思ったのだけど、作者を知らないのでまずは短編で肝試し!と、本書を手に取ってみました。いや・・・想像をはるかに超える読みやすさと面白さで、その日は仕事が死ぬほどはかどりました。昼休みも帰りの電車もずっと読んでました。

 

ホラー寄りの不思議な話

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 カラス、なぜ鳴く・・・一家の主である柳瀬正一はある朝久しぶりに一人息子と顔を合わせる。仕事ばかりで家族の顔を見ることがまばらだった正一は、妻と息子の間に自分には理解できない奇妙な"何か"があることに気づく。実は息子はいじめられていたのだが、その原因は自分だったのだと二人に言われる。

 

「人は悲しみを経験しても優しくなんかならない。狡くなるんだ。悲しみや苦しみを多く経験するほど他人に対して狡くなるんだよ。優しくなるんじゃない。やさしいふりをする狡さを身につけるんだ」

 

たつまさんがころした・・・春美は昔から神のお告げのようなものを聞くことがあった。その日も婚約者の辰馬が殺人事件の犯人のような気がして、姉の夏美に相談しようと思っていた。そのとき、だるまさんが転んだをしていた子供たちの声の中に「たつまさんがころした」という声が混じって聞こえたのだった・・・

 

あんたが無意識にそう思い込みたがっているだけ。『たつまさんがころした』って声は、子供の声じゃなくて、本当はあんたの心の声なんだよ。

 

シクラメンの家・・・出窓にシクラメンを飾ってる家がある。その家には赤と白の二色のシクラメンがあって、娘はそのシクラメンの色が変わっているのは何かの暗号だと言う。その家の奥さんが殺されたあと、実は主人がその奥さんとちょっとした知り合いだと娘に聞かされた私は娘には警察に何も言わないよう懇願した。

 

 優佳がまさかあの花の意味に気が付くとは夢にも思わなかった。白いシクラメンが時ぢ期赤いシクラメンに変わることのひそやかな意味に気付くとは・・・。

 

鬼・・・7歳の私たちはみっちゃんとかくれんぼをしていた。いつも通りみっちゃんが鬼で私たちは隠れたけど、みっちゃんは探しに来なかった。そして大人になった今、あの7歳のみっちゃんが私たちを見つけに来た。「みーつけた」と言う声とともに、あのときのかくれんぼのメンバーは死んでいった。

 

夢じゃない。

私はそう叫びたいのをこらえていた。

やっぱりみっちゃんだった。

みっちゃんはまだかくれんぼを続けるつもりなんだ。

最後の一人を見つけるまで。

 

黒髪・・・私と夫以外の誰もいないこの部屋に、黒くて長い髪の毛が落ちていた。明るめのブラウンでそこまで長くない自分のものではないのは明らかな細く長い黒髪。不思議に思いながらも私はその髪の持ち主に思い当たる人物を思い出す。

 

そんなはずはない。

彼女のものであるはずはない。

なぜなら、彼女は・・・。

 

悪夢・・・臨床心理士になった私の元に旧友の内藤が妻を見てほしいと依頼してきた。妊娠中の奥さんは「子供を産んでも、どうせ自分が殺してしまうから」と言うのだと。私は奥さんの記憶と共に悪夢にメスを入れる。

 

 悪夢の正体が分かって、ほっとしたものの、私の心は完全に晴れたわけではなかった。ほんのひとかけらほどの群雲が残っていた。

 それは、あのカウンセラーに話したことが全部事実ではなかったからだ。

 

メイ先生のバラ・・・バーにやってきた男が手にしていたのは純黄色の薔薇の大きな花束だった。39本あるとその薔薇の意味を男が語りだすのだが、それは作り話にしてはできすぎるほどできていた。

 

 今、あれと同じことをやれと言われたら、僕はためらわずに拒否するだろうね。大人としての常識が、あんなことを思いつくことさえ拒否させるだろう。

 でも、あのとき、僕たちは子供だったんだ。しかも、メイ先生をとても愛していた。愛しすぎていた。子供らしい愛し方で。つまり、きわめてエゴイスティックな愛し方で。

 

セイレーン・・・彼女と旅行の途中にケンカして車内から追い出されてしまった僕は、通りすがりの集団の仲間に入れてもらい旅館にたどり着いた。その人たちはいわゆるオフ会の集団で、もし気に入る人がいればカップルになって新年を迎えよう、という趣旨だった。そこで一人の美少女に僕は目を奪われるのだが・・・

 

「もう一度言うが、彼女は魔女だよ。きみはたぶん・・・破滅する。それでもいいんだね?」

 

 正直怖くはなかったです。どちらかというと悲しいという表現が似合いました。どんでん返しが好きな人は好きだと思います。今邑さんはすでに亡くなっていることを本書を読んで初めて知ったのですが、2022年は今邑さんの作品を余すことなく読んでいきたいと思います。