《内容》
認知症を患うカケイは、「みっちゃん」たちから介護を受けて暮らしてきた。ある時、病院の帰りに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と、みっちゃんの一人から尋ねられ、カケイは来し方を語り始める。
父から殴られ続け、カケイを産んですぐに死んだ母。お女郎だった継母からは毎日毎日薪で殴られた。兄の勧めで所帯を持つも、息子の健一郎が生まれてすぐに亭主は蒸発。カケイと健一郎、亭主の連れ子だったみのるは置き去りに。やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が、だんだん膨らみだす。
そして、ある夜明け。カケイは便所で女の赤ん坊を産み落とす。その子、みっちゃんと過ごす日々は、しあわせそのものだった。それなのに――。
暴力と愛情、幸福と絶望、諦念と悔悟……絡まりあう記憶の中から語られる、凄絶な「女の一生」。
これすっごいよかったです。
一気読み。衝撃。最初から最後までずーっと惹きつけられました。
死ぬとき、幸せって言えるかな
あたしには、しあわせな時期が、たしかに、あった。
そんなことはないとはおもうけど、今までだってなかったけど、なんかの折にだれかに、
しあわせだったか?ときかれたら、そん時は、
しあわせでした。
と、こたえてやろう。
主人公・安田カケイは認知症のおばあちゃん。介護職員の”みっちゃん”と病院の帰り、「カケイさんの人生はしあわせでしたか?」と問われ、今までの人生を振り返る。
父は母に暴力を振り、我慢強い母はそれで鼓膜が破れ目が半分以上見えなくなっても我慢した。そんな母はカケイさんを産んですぐ死んでしまった。その後やってきた継母はカケイさんとカケイさんの兄を目の敵にして毎日薪で二人を殴る。
小さなカケイさんは明日が来ないよう祈りながら眠りにつく。継母からも兄からも面倒を見られず小さなカケイさんは犬のだいちゃんのお乳を吸って育った。
そんなカケイさんもお嫁に行き子供を産むが、産んですぐ旦那は蒸発。旦那は連子を残したまま消えて、年もそう変わらぬ連子の男の子はカケイさんに暴力をふるう。そうして生まれた”みっちゃん”が、時を超えてカケイさんの元に戻ってきたのだった。
ミシン踏んでるときだけ、よけいなことをかんがえずに、すむ。
ラクんなる。
まま母に薪で殴られたことも、いなくなった亭主のことも、前の親玉にどんなにがんばっても一人前に見てもらえず、二人前以上の仕事をしてもみそっかすにしか見てもらえなかったことも、もっとずっと嫌だったことも、ぜーんぶわすれて、からっぽんなってラクんなる。
カケイさんを助けたミシン。だけどカケイさんの一番大事なものを奪ったのもミシンだった。
作者の永井さんはケアマネージャーという仕事柄、こういった話をよく聞くのだろうか。まるで二時間ドラマを見てるような、濃厚な物語でした。