深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

赤い蝋燭と人魚/小川未明~芸術は愛から出発するが殊に童話は、子供を愛さなくては書けない。~~

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《内容》

人魚の娘が絵を描いた蝋燭には不思議な力があった。しかし、金に心を奪われた老夫婦は、娘を香具師に売ってしまう-。無国籍風の絵をつけ、新しい装いとなった小川未明の代表作。

 

 これ神保町で見つけて装丁がゴシックで可愛くって500円だったので買いました。大正10年に発行されていて、タイプライターで打ったような文字でめちゃくちゃ気に入ってます。

 小川さんのお名前は初めて知って、この人がどんな人なのか知らずに買ったのですが冒頭の作者の言葉で相当熱い人だなぁと感じてこの出会いに感謝しました。

 

全て、芸術は愛から出発するが殊に童話は、子供を愛さなくては書けない。

 

 

赤い蝋燭と人魚

 人魚というと、アンデルセンの泡となって消える悲しいお話や歌で旅人を誘うセイレーンが思い浮かぶと思うのですが、これは新しい人魚です。

 

 人魚自身が、どうして私たちは人間の方が姿形が似ているのに、この暗い海の中で獣たちと生きていかなければならないのだろう?と考え、自ら自分の娘を人間に拾ってもらえるように陸の上に産み落としたのです。

 

幸い、私達は、みんなよく顔が人間に似ているばかりでなく、胴から上は全部人間其のままなのであるからー魚や獣物の世界でさえ、暮されるところを見ればー其の世界で暮らされないことはない。一度、人間が手に取り上げて育ててくれたら、決して無慈悲に捨てることもあるまいと思われる。

 

 人魚は人間はこの世界で一番やさしいものだと聞いていたので、娘と離れる二度と会えないのは寂しいが、暗く荒れた海の中で獣と暮らすよりも人間の世界で生きた方が幸せだろうと思ったのです。

 

 人魚の思う通り、蝋燭売りの夫婦のおばあさん人魚の赤子を見つけ家に迎え入れました。二人はすぐにその赤子が人間の子供ではないことを悟るが、神様の授け子として大事に人魚を育てます。

 

 娘は大きくなるとおじいさんの造った蝋燭に赤い絵の具で魚や貝など海の絵を描いていきました。それがあまりに美しかったので、人魚の描いた赤い蝋燭はたくさん売れていきました。

 

 優しい老夫婦と人魚は幸せに暮らしていましたが、ある日、南の方の国から、香具師がやってきて人魚を売ってくれと老夫婦に交渉します。さらに香具師は人魚は不吉なものだと言います。

 老夫婦は大金に心を奪われ人魚を売ることにしてしまいます・・・・

 

 

 この短編集には合計18話が収録されているのですが、童話によくある強欲な者に罰が当たる結末になっています。日本昔話のようなお話、というとイメージがわくと思うのですが、言葉が綺麗なのと描写で時代が分かってそれもまた美しかったです。

 今でも鈴虫はいるのに、この小説の中ではやはりこの時代の風景が浮かんでくるのです。

 

 鈴虫の出る頃は、なんでも楽しい時節でした。ちょうとその頃は、暑中休暇であって、畑には、いろいろな野菜が茂り、いろいろの花が咲き、夜の明るくて、森や、河が

みんな夜もすがら歌を歌っているような、季節であったからであります。

 

(「ある時の兄と弟」より)

 

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 この本を読んでて思ったんですが、日本昔話でもよくあるけど、日本童話の根底って仏教の一切皆苦や因果応報という考え方があるんですよね。日本は無宗教と言いますが、仏教の思想が自然と身につくような社会というか、もうDNAに組み込まれてるんじゃないかと思うほど仏教ネイティブなんだなぁ、と思いました。