深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選〜生きのびるための物語〜

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《内容》

村上春樹が心をこめて贈る、12の「パーソナル・ベスト」。レイモンド・カーヴァーの全作品の中から、偏愛する短篇、詩、エッセイを新たに訳し直した「村上版ベスト・セレクション」に、各作品解説、カーヴァー研究家による序文・年譜を付す。

 

とある人から「カーヴァーを読みな!」と後押しされ読んでみました。何から読んでいいかわからず、ここは信頼の村上春樹さんに頼りました。

www.xxxkazarea.com

 

実はここで一作触れていたことを読んで気づきました。

タイトルは「足もとに流れる深い川」。

「教養としてのアメリカ短篇小説」を読む。

 

たとえば男と女の関係、どうして僕らは往々にして自分たちがいちばん価値を置いているものを手放す羽目になるのかということ、自分たちの中にある力や資質をうまく扱えないこと。僕はまた生きのびるということにも関心がある。どん底にまで落ちたときに、人はどのようにすれば浮かび上がれるものかということにね。

 

 

善き人のための短編集

でぶ•••私は働いているレストランにやってきた今までみたこともないほどの太った男の話を友人にする。

 

 私はお茶を飲もうと湯を沸かし、シャワーに入る。私はお腹に手を置き、ふとこう思う。もし私に子供がいて、その子供のひとりがあんな風だったら、あんなにでぶだったりしたら、一体どういうことになるかしら?

 

 

サマー・スティルヘッド(夏にじます)•••仲違いしている両親、生意気な弟、そして大好きな釣り。僕は偶然居合わせた年下の男の子と協力して今までにないほど大きなにじますを釣り上げる。それを男の子と半分にして家に持ち帰るが…

 

僕は外に出た。そしてびくの中を覗きこんだ。そこにあるものはポーチの光の下では銀色に見えた。そこにあるものでびくはいっぱいになっていた。

 

 

あなたお医者さま?•••妻からの電話を待っていると全然知らない女性から電話がかかってくる。アーノルドは電話帳にも載せていないこの番号をなぜ知っているのかという疑問に駆られて彼女の言いなりになってしまう。

 

 彼は黙りこんだまま、妻の声について考えてみた。

「どうしたの、アーノルド?」と彼女は言った。「なんだかあなたじゃないみたいよ」

 

 

収集•••失業して家にいた僕のところに前の住人の当選品を持ってきたと郵便配達夫がやってくる。僕は早く帰ってほしいと思うが郵便配達夫はいそいそと掃除機の準備を始める。

 

何ヶ月か、何年かのあいだにこんなにもマットレスにいろんなものが溜まるのかってね。私たちの人生において、私たちは毎日毎晩、体の一部をちょっとずつ落としていくんです。ひとかけら、またひとかけらとね。それらは、そういった私たち自身の細かな断片は一体どこに行くのでしょうか。

 

 

足もとに流れる深い川•••クレアは夫のスチュアートが女性の水死体を目の前にキャンプを楽しんで帰ってきたことが許せない。しかしそれを理屈で説明することはできずスチュアートも自分が殺したわけではないのだから責められる謂れはないと思っている。クレアは全くの他人の女性の葬式に参列するため一人で旅立つ。

 

我々は既に決定を下し、我々の人生は既に動き出してしまったのだ。そしてそれはしかるべき時が来るまでえんえんと動きつづけるだろう。しかしもしそれが真実だとしても、それでどうなると言うのだ?つまりあなたはそう信じてはいながら、それを包みかくして日々を送っている。そしてある日事件が起こる。それは何かを変化させてしまうはずの事件だ。それなのに、まわりを見まわしてみれば、そこには変化の兆しはまるでない。

 

 

ダンスしないか?•••とある家の庭で行っているヤードセールにカップルがやってくる。

 

 彼はテーブルの前に座っている二人を眺めた。ランプの灯に照らされた二人の顔にはひきつけられる何かがあった。それが善きものなのか、それも悪しきものなのか。誰にわかるだろう。

 

 

大聖堂•••妻の知り合いの盲人が家に来ることになり夫は鬱陶しいなぁと乗り気でなく茶化すように盲人に絡むが、妻が寝た後二人は意図せず心を通わせる。

 

「ねえ、まさかこんなことをやる羽目になるなんてこれまで考えたこともなかったでしょ?人生っておかしなもんだよね、バブ。みんなほんとにそうなんだね。さあ、つづきをやろうよ。この感じでいいから」

 

 

ぼくが電話をかけている場所•••アル中の僕はアルコール中毒診療所で治療を受けている。そこから僕は彼女に電話をかける。

 

「我々は君を救うことができる。もし君がそれを望み、我々の言うことに耳を傾けてくれればね」でも彼らが僕を救えるかどうかなんて、僕にはわからなかった。僕はある部分では救われたがっていた。でもそうじゃない部分はあった。

 

 

ささやかだけれど、役にたつこと•••無口で不器用なパン屋が死んだ息子の誕生日ケーキの完成を悲しみにくれている両親で電話する。両親は不慮の事故で死んだ息子の死でいっぱいでパン屋からの電話に殺気立つ。

 

「何か召し上がらなくちゃいけませんよ」とパン屋は言った。「よかったら、あたしが焼いた温かいロールパンを食べて下さい。ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならんのだから。こんなときには、ものを食べることです。それはささやかなことですが、助けになります」と彼は言った。

 

 

使い走り•••チェーホフの死に立ち会った若い少年の話。

 

そうです、あなたは重大な使いの仕事に携わっているのです、と彼女は言った。

 

 個人的に一番好きなのは「あなたお医者さま?」です。カポーティ、村上春樹で見られる電話という装置がここでも機能している。そして若干の不気味さもそそられポイントです。